きみのために -青い竜の伝説ー
30.約束の時
ディアナたちが館に着いたのは早朝だった。
活気に満ちた兵士たちは再び進撃してくるシラー軍への準備を進めている。
アイザックはウェルスターから現状について細かに聞いているところだった。
「では、シラー国で内乱が起こっていると?」
「・・断定はできないが、おそらくは。入っていう情報によると、
戦争で勢力を広げようと煽る軍部と、それに反する国王派との間で主導権を争いあっていて、
しびれを切らした軍部の一存で今回の紛争を起こしているようだ。
シラー国王は前年その王位を継承したばかりだから、おそらくその際の何かしらの不満を
抱いていた兵士たちによる反乱だろう。」
アイザックは頷いた。どこの国でもよく聞くような話だと思われた。
「これからの対策は?」
ふたりと一緒にいたエルロイ卿がウェルスターの話をついで口を開こうとした。
卿は、ふとその瞳をアイザックの後方に移した。
「皇子がいらっしゃった。」
アイザックも振り向いた。
「おひとりで?『救い』はおそばにいらっしゃらないのですか?」
エルロイ卿の興味を露骨に含んだ言葉にフランツは表情を曇らせた。
「休みなく走ってきて疲れたようだ。ディアナは私の寝室で眠っている。
アイザック、ディアナのそばに居てくれ。誰も中に入れないように。
私はここで指揮をとらなければならない。」
エルロイ卿は舌を巻いた。
「かしこまりました。
・・皇子、シラーの内乱の話を聞きました。このまま戦争になるのでしょうか?」
アイザックが聞いた。
「私たちはあくまでも話し合いで平和を取り戻したいだけだ。
シラー国王派と連携し、軍部を叩くつもりでいる。」
一同の表情が険しくなった。
フランツ皇子、エルロイ卿、ウェルスター、それに純白のマントの騎士が数人集まり、作戦会議が始まった。
アイザックはディアナの眠る上の階へと昇って行った。
ディアナは眩しい朝の光を受けながら、それでも眠り続けていた。
馬で駆け続けた疲れが一気にやってきたのだろう、無理もないと思われた。
そのとき、敵の進撃を知らせる笛の音が響き渡った。
アイザックは椅子から飛び上がり中庭を見下ろした。
中庭では兵士たちが隊列を組んでいる最中だ。
遥か向こうに視線を移すと、緑の木々の間に黒い点々としたものが
数を増やし、こちらにやってくるようなのが見えた。
『来た!』アイザックは目を細めた。ものすごい数の軍団のようだった。
階下でも動きがあわただしくなり、兵士たちの気合を入れる声が響く。
剣と盾をぶつけ合う音が響く。
兵士たちの隊列が館から飛び出していった。
館から遥か彼方の平原に兵士たちが並ぶ。
銀灰色の兵たちと、黒に赤の入った兵たちがにらみ合う。
数では黒のほうが多いように見える。
時の声とともに大地が割れるような音を立て、兵士たちが走り出した。
ぶつかり合う音。弓のしなる音。雨のように矢が降り注ぐ音。
剣のぶつかり合う音。叫び声。馬のいななき。。
ーーーー、始まった。
フランツは隊列の後方に構えた陣から見ていた。
話し合いで収束させたかった。
無意味な殺し合いは避けたかった。
この戦いは早く終えなければならない、フランツの心は燃えていた。
☆☆☆
バルコニーからその様子を注視していたアイザックは、
衣擦れの音がしたようで後ろを振り返った。
見ると、ディアナが目を覚まして身体を起こしているところだった。
「お目覚めでしたか?まだ少ししか眠って・・」
近づいてアイザックは息を飲んだ。
☆☆☆
「戦況は?」
陣営に駆け寄ってきた兵が報告をする。
「前線、シラーの数が多く、破っても破ってもいまだ崩しきれず。
弓兵による負傷者が出ています!」
「負傷者をすぐ後方へ!」
「弓隊、斜めから狙え!」
☆☆☆
ベッドに起き上がったディアナは瞳を閉じたまま、まだ眠っているようだった。
「・・ディアナ様?」
☆☆☆
純白のマントをなびかせた騎士たちはひとりでその敵対する兵を
何人も倒していく。だが、数で勝る黒に赤の兵が銀灰色の兵を
じわりじわりと押し込んでいくようだった。
「フランツ皇子、シラー兵の数が予想を超えこの地に集中しております。
わが軍も更なる援軍の要請が必要かと思われます!」
フランツは眉根を寄せた。
その時だった。
突風が吹き付けた。
フランツたちは背後からごうごうと吹き付ける風に振り向いた。
身体に巻きつくマントを押さえ、その向こうに見えたのは
館のバルコニーに立てたれた白い布。
いや、バルコニーに身を乗り出した白い服のディアナだった。
しかしディアナのその服はまったく風に揺れていないようだった。
「あれは?!」誰かが言った。
バルコニーに立つ彼女は手をこちらに突出したような恰好。
まるで、その手のひらから突風が吹きだしているかのような
錯覚を起こす。
ごうごうと風はやまずに吹き付けている。
ぴたり、と一瞬、風がやんだ。
あっけにとられる兵士たち。
ディアナの身体が青い光を発したかと思うと、
うなるような風が兵士たちめがけて吹きつけた。
「・・!!」フランツのディアナを呼ぶ声はかき消された。
その疾風は青い竜が口を開き身体をうねらせながらせまりくるように見えた。
何もかもを吹き飛ばさんばかりの風がぶつかってくるのを
足を踏ん張って耐える。
口々に青い竜が見えた!と叫ぶ者たち。
風は兵士を吹き飛ばし、武器を吹き飛ばし、弓や槍や剣を
砂のようにぽろぽろと無に帰した。
黒と赤の兵士たちは多くが吹き飛ばされた。
不思議なことに、銀灰色の兵士たちだけが吹き飛ばされずに残った。
一陣の風が通りすぎると・・歓声が沸きあがった。
青い竜だと叫ぶ者、救いが竜になったと叫ぶ者。
口ぐちに伝説と王の勝利を讃えていた。
ザンジュールの兵士たちはこぶしを上げ、時の声をあげた。
バルコニーからディアナの姿が消えている。
あたりを探し回るようなアイザックの姿だけが見える。
ディアナが青い光に包まれ・・
消えてしまった・・!?
フランツは目の前で見ていたことが信じられなかった。
ディアナの姿が突然目の前から消えてしまったことなど
信じたくなかった・・
「そんな・・!!」
フランツの叫び声。
フランツは彼女の名前を叫んだ・・・・
・・そこで目の前が真っ暗になった。
活気に満ちた兵士たちは再び進撃してくるシラー軍への準備を進めている。
アイザックはウェルスターから現状について細かに聞いているところだった。
「では、シラー国で内乱が起こっていると?」
「・・断定はできないが、おそらくは。入っていう情報によると、
戦争で勢力を広げようと煽る軍部と、それに反する国王派との間で主導権を争いあっていて、
しびれを切らした軍部の一存で今回の紛争を起こしているようだ。
シラー国王は前年その王位を継承したばかりだから、おそらくその際の何かしらの不満を
抱いていた兵士たちによる反乱だろう。」
アイザックは頷いた。どこの国でもよく聞くような話だと思われた。
「これからの対策は?」
ふたりと一緒にいたエルロイ卿がウェルスターの話をついで口を開こうとした。
卿は、ふとその瞳をアイザックの後方に移した。
「皇子がいらっしゃった。」
アイザックも振り向いた。
「おひとりで?『救い』はおそばにいらっしゃらないのですか?」
エルロイ卿の興味を露骨に含んだ言葉にフランツは表情を曇らせた。
「休みなく走ってきて疲れたようだ。ディアナは私の寝室で眠っている。
アイザック、ディアナのそばに居てくれ。誰も中に入れないように。
私はここで指揮をとらなければならない。」
エルロイ卿は舌を巻いた。
「かしこまりました。
・・皇子、シラーの内乱の話を聞きました。このまま戦争になるのでしょうか?」
アイザックが聞いた。
「私たちはあくまでも話し合いで平和を取り戻したいだけだ。
シラー国王派と連携し、軍部を叩くつもりでいる。」
一同の表情が険しくなった。
フランツ皇子、エルロイ卿、ウェルスター、それに純白のマントの騎士が数人集まり、作戦会議が始まった。
アイザックはディアナの眠る上の階へと昇って行った。
ディアナは眩しい朝の光を受けながら、それでも眠り続けていた。
馬で駆け続けた疲れが一気にやってきたのだろう、無理もないと思われた。
そのとき、敵の進撃を知らせる笛の音が響き渡った。
アイザックは椅子から飛び上がり中庭を見下ろした。
中庭では兵士たちが隊列を組んでいる最中だ。
遥か向こうに視線を移すと、緑の木々の間に黒い点々としたものが
数を増やし、こちらにやってくるようなのが見えた。
『来た!』アイザックは目を細めた。ものすごい数の軍団のようだった。
階下でも動きがあわただしくなり、兵士たちの気合を入れる声が響く。
剣と盾をぶつけ合う音が響く。
兵士たちの隊列が館から飛び出していった。
館から遥か彼方の平原に兵士たちが並ぶ。
銀灰色の兵たちと、黒に赤の入った兵たちがにらみ合う。
数では黒のほうが多いように見える。
時の声とともに大地が割れるような音を立て、兵士たちが走り出した。
ぶつかり合う音。弓のしなる音。雨のように矢が降り注ぐ音。
剣のぶつかり合う音。叫び声。馬のいななき。。
ーーーー、始まった。
フランツは隊列の後方に構えた陣から見ていた。
話し合いで収束させたかった。
無意味な殺し合いは避けたかった。
この戦いは早く終えなければならない、フランツの心は燃えていた。
☆☆☆
バルコニーからその様子を注視していたアイザックは、
衣擦れの音がしたようで後ろを振り返った。
見ると、ディアナが目を覚まして身体を起こしているところだった。
「お目覚めでしたか?まだ少ししか眠って・・」
近づいてアイザックは息を飲んだ。
☆☆☆
「戦況は?」
陣営に駆け寄ってきた兵が報告をする。
「前線、シラーの数が多く、破っても破ってもいまだ崩しきれず。
弓兵による負傷者が出ています!」
「負傷者をすぐ後方へ!」
「弓隊、斜めから狙え!」
☆☆☆
ベッドに起き上がったディアナは瞳を閉じたまま、まだ眠っているようだった。
「・・ディアナ様?」
☆☆☆
純白のマントをなびかせた騎士たちはひとりでその敵対する兵を
何人も倒していく。だが、数で勝る黒に赤の兵が銀灰色の兵を
じわりじわりと押し込んでいくようだった。
「フランツ皇子、シラー兵の数が予想を超えこの地に集中しております。
わが軍も更なる援軍の要請が必要かと思われます!」
フランツは眉根を寄せた。
その時だった。
突風が吹き付けた。
フランツたちは背後からごうごうと吹き付ける風に振り向いた。
身体に巻きつくマントを押さえ、その向こうに見えたのは
館のバルコニーに立てたれた白い布。
いや、バルコニーに身を乗り出した白い服のディアナだった。
しかしディアナのその服はまったく風に揺れていないようだった。
「あれは?!」誰かが言った。
バルコニーに立つ彼女は手をこちらに突出したような恰好。
まるで、その手のひらから突風が吹きだしているかのような
錯覚を起こす。
ごうごうと風はやまずに吹き付けている。
ぴたり、と一瞬、風がやんだ。
あっけにとられる兵士たち。
ディアナの身体が青い光を発したかと思うと、
うなるような風が兵士たちめがけて吹きつけた。
「・・!!」フランツのディアナを呼ぶ声はかき消された。
その疾風は青い竜が口を開き身体をうねらせながらせまりくるように見えた。
何もかもを吹き飛ばさんばかりの風がぶつかってくるのを
足を踏ん張って耐える。
口々に青い竜が見えた!と叫ぶ者たち。
風は兵士を吹き飛ばし、武器を吹き飛ばし、弓や槍や剣を
砂のようにぽろぽろと無に帰した。
黒と赤の兵士たちは多くが吹き飛ばされた。
不思議なことに、銀灰色の兵士たちだけが吹き飛ばされずに残った。
一陣の風が通りすぎると・・歓声が沸きあがった。
青い竜だと叫ぶ者、救いが竜になったと叫ぶ者。
口ぐちに伝説と王の勝利を讃えていた。
ザンジュールの兵士たちはこぶしを上げ、時の声をあげた。
バルコニーからディアナの姿が消えている。
あたりを探し回るようなアイザックの姿だけが見える。
ディアナが青い光に包まれ・・
消えてしまった・・!?
フランツは目の前で見ていたことが信じられなかった。
ディアナの姿が突然目の前から消えてしまったことなど
信じたくなかった・・
「そんな・・!!」
フランツの叫び声。
フランツは彼女の名前を叫んだ・・・・
・・そこで目の前が真っ暗になった。