きみのために -青い竜の伝説ー
33.なつかしさの理由
私は窓辺に立っている。
外に広がる闇を見つめている。
そうしている自分を見つめている自分がいる。
彼女は無事だろうか?
『そうだ、このとき彼女は毒矢で傷を負わされてしまった。
知っているのに、私は心配している。妙な気分だ。。』
「皇子様、ウェルスター卿が参っております。」
執事のベンダモンが声を掛けた。
「隣の部屋へ。すぐに向かう。」
私はシャツのボタンを留め、体を扉へ向けた。
隣の部屋へ行く、そしてウェルスターから報告を受けるのだった。
覚えている通りだ。
「さきほどの娘は無事か?」
「捕らえる際、庭の奥に逃げ込まれないようやむを得ず毒矢で射ました。
その際、腕に少々傷を負っております。今はその毒の為気を失っておりますが、その他に負傷はみられません。」
「何?!」
わかっているのに、知らないこの時の私の口が勝手に声を荒げている。
「城の庭といえど、あそこは広い森のようなところです。
夜、逃げ込まれては明け方になるまで見つけられない可能性がありました。
やむを得ずの手段でした。」
「わかった。」
「ですが皇子、なぜあの娘にご執心なさるのですか?」
ウェルスターの明らかに解せないという表情。
彼らには本当に奇妙に見えたことだろう。
初対面のしかも正体のわからない少女をそこまで心配していた自分が。
初めて客観的に自分が見えた気がした。
「失礼と承知で申し上げますが、皇子が望まれればそれこそ国中のご令嬢が先を争って参られるでしょう。
それを、どこの者とも知れない娘に・・。」
「ウェルスター、あの娘は大事な証人だ。」
「レデオンの件は私をよく思わない者の罠だと私は思っている。」
「何か掴まれたのですか?」
「いや、確証はない。だが、レデオンに持病はなかったと侍医から確認している。
あの吐血は毒によるものらしい。あの場所にいたのは私とレデオン、そしてあの少女だけだ。
もしあの少女が誰かの手先であれば、あの場で悲鳴を上げて正体をばらすようなマネはしないだろう。
私を陥れようとした者もあの少女のことは計算外だったはず。
私は、あの少女は私が見なかった何かを見て悲鳴を上げたとみている。
それが何か・・。私はそれを聞きたいと思っている。」
ウェルスターもやっと納得したようだった。
「だがあの少女からはどこか・・いや、何かというべきか?
あの娘の瞳を見たとき、何か懐かしさのようなものを感じたのは確かだ。」
自分の言う『懐かしさ』を納得できる気がした。
私はこの時、確かにあの少女を『知って』いたのだから。
「わかりました。それでは、その娘のことは・・皇子にお任せいたします。
煮るなり焼くなり、おそばにおくなり、ご自由になさってください。」
「ですが、怪しいと感じたときは私に任せていただきます。」
「よし、娘のところへいこう。」
『やっと会える・・・』フランツは早くその腕に抱きしめたかった。
『抱きしめたい・・・』
、、、誰を?
急に心につぅ・・と冷たい風が駆け抜けて行ったようだった。
フランツは歩き出していた。
「皇子、後ろで糸を引いているものがいるかもしれないのです。ご注意ください。」
「ああ、私が気を許している者はそうはいない。
常に気を付けているつもりだが、気を付けておくよ。」
フランツは口元を上げて笑うように見えた。
ウェルスターはいつも通りの皇子に従って歩いた。
外に広がる闇を見つめている。
そうしている自分を見つめている自分がいる。
彼女は無事だろうか?
『そうだ、このとき彼女は毒矢で傷を負わされてしまった。
知っているのに、私は心配している。妙な気分だ。。』
「皇子様、ウェルスター卿が参っております。」
執事のベンダモンが声を掛けた。
「隣の部屋へ。すぐに向かう。」
私はシャツのボタンを留め、体を扉へ向けた。
隣の部屋へ行く、そしてウェルスターから報告を受けるのだった。
覚えている通りだ。
「さきほどの娘は無事か?」
「捕らえる際、庭の奥に逃げ込まれないようやむを得ず毒矢で射ました。
その際、腕に少々傷を負っております。今はその毒の為気を失っておりますが、その他に負傷はみられません。」
「何?!」
わかっているのに、知らないこの時の私の口が勝手に声を荒げている。
「城の庭といえど、あそこは広い森のようなところです。
夜、逃げ込まれては明け方になるまで見つけられない可能性がありました。
やむを得ずの手段でした。」
「わかった。」
「ですが皇子、なぜあの娘にご執心なさるのですか?」
ウェルスターの明らかに解せないという表情。
彼らには本当に奇妙に見えたことだろう。
初対面のしかも正体のわからない少女をそこまで心配していた自分が。
初めて客観的に自分が見えた気がした。
「失礼と承知で申し上げますが、皇子が望まれればそれこそ国中のご令嬢が先を争って参られるでしょう。
それを、どこの者とも知れない娘に・・。」
「ウェルスター、あの娘は大事な証人だ。」
「レデオンの件は私をよく思わない者の罠だと私は思っている。」
「何か掴まれたのですか?」
「いや、確証はない。だが、レデオンに持病はなかったと侍医から確認している。
あの吐血は毒によるものらしい。あの場所にいたのは私とレデオン、そしてあの少女だけだ。
もしあの少女が誰かの手先であれば、あの場で悲鳴を上げて正体をばらすようなマネはしないだろう。
私を陥れようとした者もあの少女のことは計算外だったはず。
私は、あの少女は私が見なかった何かを見て悲鳴を上げたとみている。
それが何か・・。私はそれを聞きたいと思っている。」
ウェルスターもやっと納得したようだった。
「だがあの少女からはどこか・・いや、何かというべきか?
あの娘の瞳を見たとき、何か懐かしさのようなものを感じたのは確かだ。」
自分の言う『懐かしさ』を納得できる気がした。
私はこの時、確かにあの少女を『知って』いたのだから。
「わかりました。それでは、その娘のことは・・皇子にお任せいたします。
煮るなり焼くなり、おそばにおくなり、ご自由になさってください。」
「ですが、怪しいと感じたときは私に任せていただきます。」
「よし、娘のところへいこう。」
『やっと会える・・・』フランツは早くその腕に抱きしめたかった。
『抱きしめたい・・・』
、、、誰を?
急に心につぅ・・と冷たい風が駆け抜けて行ったようだった。
フランツは歩き出していた。
「皇子、後ろで糸を引いているものがいるかもしれないのです。ご注意ください。」
「ああ、私が気を許している者はそうはいない。
常に気を付けているつもりだが、気を付けておくよ。」
フランツは口元を上げて笑うように見えた。
ウェルスターはいつも通りの皇子に従って歩いた。