きみのために -青い竜の伝説ー
38.それぞれの役目
「皇子がいらっしゃった。」
エルロイ卿の声に、ウェルスターとアイザックも振り向いた。
フランツはアイザックにディアナの護衛を指示し、作戦会議が始まった。
突然、笛の音が響き渡る。
シラー国の軍勢が彼方に見えた。
ザンジュール軍も出撃していく。
アイザックは上階からそれを目を細めて見守る。
ーーーー、始まった。
「戦況は?」
陣営に駆け寄ってきた兵が報告をする。
「前線、シラーの数が多く、破っても破ってもいまだ崩しきれず。
弓兵による負傷者が出ています!」
「負傷者をすぐ後方へ!」
「弓隊、斜めから狙え!」
純白のマントをなびかせた騎士たちはひとりでその敵対する兵を何人も倒していく。
だが、数で勝る黒に赤の兵が銀灰色の兵を
じわりじわりと押し込んでいくようだった。
「フランツ皇子、シラー兵の数が予想を超えこの地に集中しております。
わが軍も更なる援軍の要請が必要かと思われます!」
フランツは眉根を寄せた。
「ウェルスター!シラー国王派はどうなっている?!」
「間もなくのはずです!」
フランツの見つめる彼方に更に黒い兵士たちの一団が見えてきた。
その時だった。
突風が吹き付けた。
フランツたちは背後からごうごうと吹き付ける風に振り向いた。
身体に巻きつくマントを押さえ、その向こうに見えたのは館のバルコニーに立てられた白い布、いや、バルコニーに身を乗り出した白い服のディアナだった。
しかしディアナのその服はまったく風に揺れていないようだった。
「あれは?!」誰かが言った。
バルコニーに立つ彼女は手をこちらに突出したような恰好。
まるで、その手のひらから突風が吹きだしているかのような錯覚を起こす。
ごうごうと風はやまずに吹き付ける。
ぴたりと、一瞬、風がやんだ。
あっけにとられる兵士たち。
ディアナの身体が青い光を発したかと思うと、
うなるような風が兵士たちめがけて吹き付けた。
その閃光はディアナのつけた首飾りの青い玉から放たれているようだった。
叩きつけるような突風、
しかしフランツはしっかりとディアナを見つめていた。
青い光に包まれて、ディアナはそこにいた。
フランツはディアナを信じていた。
その疾風は青い竜が口を開き身体をうねらせながらせまりくるように見えた。
何もかもを吹き飛ばさんばかりの風がぶつかってくるのを足を踏ん張って耐える。
口々に青い竜が見えた!と叫ぶ者たち。
風は兵士を吹き飛ばし、武器を吹き飛ばし、弓や槍や剣を砂のようにぽろぽろと無に帰した。
黒と赤の兵士たちは多くが吹き飛ばされた。
不思議なことに、銀灰色の兵士たちだけが吹き飛ばされずに残った。
一陣の風が通りすぎると・・歓声が沸きあがった。
青い竜だと叫ぶ者、救いが勝利をもたらした、と叫ぶ者。
口ぐちに伝説の救いと王の勝利を讃えていた。
ザンジュールの兵士たちはこぶしを上げ、時の声をあげていた。
バルコニーには白い服のディアナの姿がそのままそこにあった。
遠くて表情はわからないはずなのに、
フランツには彼女がほほ笑んでいるように思えた。
みなが言う救い、それ以上に自分にとってこんなにも何にも代えがたい存在、、
フランツも時の声をあげた。
今すぐ彼女のもとに駆け付けたかった。
「皇子、来ました!」
最後の仕上げが残っていた。
かなたに黒い兵士の一団の姿が見えた。
腕に赤いマークをつけていなかった。
彼らの先頭には青いマントをつけ、シラー国の国旗に先導されたシラー国王、昨年その王位についたばかりのイヴァン2世の姿があった。
フランツは彼とは昨年の戴冠の際に顔を合わせていた。
「フランツ皇子とお見受けいたします。」
さっとイヴァン2世が馬から降りた。
お互いの兵に目配せを送り、イヴァン2世とフランツ皇子はふたりだけで歩みを寄せた。
「今回の紛争は軍部の内乱によるもの、我が国の意図するところでは決してありません。
ですが、このように負傷者も出していること、大変申し訳ない。」
イヴァン2世は遺憾の意を伝えた。
フランツは頷き、厳しい声で伝えた。
「軍部とのこと、よく収められますよう。これ以上の被害と無用な戦いは、我が国としても望むところではありません。」
「もちろんです。」
フランツより少し若いイヴァン2世だが、賢王としてその噂は皇子の時から耳にしていた。
二人は国をつかさどる者の役目として、この紛争を収める約束をした。
「さきほどの、、とても美しい女性ですね。」
フランツはイヴァン2世の視線が館のほうに向けられているのを見て取った。
「ぜひ一度お会いしたいものです。」
「それでは私の戴冠の際に来られるといい。」
「お身内の方でしょうか?」
「ええ、花のような、私の妃になる姫です。」
フランツはにこりと見せた。イヴァン2世の笑い声が聞こえていた。
かならず、と約束してイヴァン2世は兵士たちを連れ引き上げて行った。
かろうじて残っていた黒と赤の兵士たちはシラー国王軍に引き立てられていった。
ザンジュール国軍は揚々と館へ引き上げた。
バルコニーに出ていたディアナは彼らの姿が館に戻るまで、そこで帰りを見守っていた。
戻る彼らにめいっぱい手を振って応える。
銀色に輝くフランツの姿も見えていた。
エルロイ卿の声に、ウェルスターとアイザックも振り向いた。
フランツはアイザックにディアナの護衛を指示し、作戦会議が始まった。
突然、笛の音が響き渡る。
シラー国の軍勢が彼方に見えた。
ザンジュール軍も出撃していく。
アイザックは上階からそれを目を細めて見守る。
ーーーー、始まった。
「戦況は?」
陣営に駆け寄ってきた兵が報告をする。
「前線、シラーの数が多く、破っても破ってもいまだ崩しきれず。
弓兵による負傷者が出ています!」
「負傷者をすぐ後方へ!」
「弓隊、斜めから狙え!」
純白のマントをなびかせた騎士たちはひとりでその敵対する兵を何人も倒していく。
だが、数で勝る黒に赤の兵が銀灰色の兵を
じわりじわりと押し込んでいくようだった。
「フランツ皇子、シラー兵の数が予想を超えこの地に集中しております。
わが軍も更なる援軍の要請が必要かと思われます!」
フランツは眉根を寄せた。
「ウェルスター!シラー国王派はどうなっている?!」
「間もなくのはずです!」
フランツの見つめる彼方に更に黒い兵士たちの一団が見えてきた。
その時だった。
突風が吹き付けた。
フランツたちは背後からごうごうと吹き付ける風に振り向いた。
身体に巻きつくマントを押さえ、その向こうに見えたのは館のバルコニーに立てられた白い布、いや、バルコニーに身を乗り出した白い服のディアナだった。
しかしディアナのその服はまったく風に揺れていないようだった。
「あれは?!」誰かが言った。
バルコニーに立つ彼女は手をこちらに突出したような恰好。
まるで、その手のひらから突風が吹きだしているかのような錯覚を起こす。
ごうごうと風はやまずに吹き付ける。
ぴたりと、一瞬、風がやんだ。
あっけにとられる兵士たち。
ディアナの身体が青い光を発したかと思うと、
うなるような風が兵士たちめがけて吹き付けた。
その閃光はディアナのつけた首飾りの青い玉から放たれているようだった。
叩きつけるような突風、
しかしフランツはしっかりとディアナを見つめていた。
青い光に包まれて、ディアナはそこにいた。
フランツはディアナを信じていた。
その疾風は青い竜が口を開き身体をうねらせながらせまりくるように見えた。
何もかもを吹き飛ばさんばかりの風がぶつかってくるのを足を踏ん張って耐える。
口々に青い竜が見えた!と叫ぶ者たち。
風は兵士を吹き飛ばし、武器を吹き飛ばし、弓や槍や剣を砂のようにぽろぽろと無に帰した。
黒と赤の兵士たちは多くが吹き飛ばされた。
不思議なことに、銀灰色の兵士たちだけが吹き飛ばされずに残った。
一陣の風が通りすぎると・・歓声が沸きあがった。
青い竜だと叫ぶ者、救いが勝利をもたらした、と叫ぶ者。
口ぐちに伝説の救いと王の勝利を讃えていた。
ザンジュールの兵士たちはこぶしを上げ、時の声をあげていた。
バルコニーには白い服のディアナの姿がそのままそこにあった。
遠くて表情はわからないはずなのに、
フランツには彼女がほほ笑んでいるように思えた。
みなが言う救い、それ以上に自分にとってこんなにも何にも代えがたい存在、、
フランツも時の声をあげた。
今すぐ彼女のもとに駆け付けたかった。
「皇子、来ました!」
最後の仕上げが残っていた。
かなたに黒い兵士の一団の姿が見えた。
腕に赤いマークをつけていなかった。
彼らの先頭には青いマントをつけ、シラー国の国旗に先導されたシラー国王、昨年その王位についたばかりのイヴァン2世の姿があった。
フランツは彼とは昨年の戴冠の際に顔を合わせていた。
「フランツ皇子とお見受けいたします。」
さっとイヴァン2世が馬から降りた。
お互いの兵に目配せを送り、イヴァン2世とフランツ皇子はふたりだけで歩みを寄せた。
「今回の紛争は軍部の内乱によるもの、我が国の意図するところでは決してありません。
ですが、このように負傷者も出していること、大変申し訳ない。」
イヴァン2世は遺憾の意を伝えた。
フランツは頷き、厳しい声で伝えた。
「軍部とのこと、よく収められますよう。これ以上の被害と無用な戦いは、我が国としても望むところではありません。」
「もちろんです。」
フランツより少し若いイヴァン2世だが、賢王としてその噂は皇子の時から耳にしていた。
二人は国をつかさどる者の役目として、この紛争を収める約束をした。
「さきほどの、、とても美しい女性ですね。」
フランツはイヴァン2世の視線が館のほうに向けられているのを見て取った。
「ぜひ一度お会いしたいものです。」
「それでは私の戴冠の際に来られるといい。」
「お身内の方でしょうか?」
「ええ、花のような、私の妃になる姫です。」
フランツはにこりと見せた。イヴァン2世の笑い声が聞こえていた。
かならず、と約束してイヴァン2世は兵士たちを連れ引き上げて行った。
かろうじて残っていた黒と赤の兵士たちはシラー国王軍に引き立てられていった。
ザンジュール国軍は揚々と館へ引き上げた。
バルコニーに出ていたディアナは彼らの姿が館に戻るまで、そこで帰りを見守っていた。
戻る彼らにめいっぱい手を振って応える。
銀色に輝くフランツの姿も見えていた。