きみのために -青い竜の伝説ー
40.ともに
フランツ皇子は国民の歓声につつまれて城に帰還した。
彼が王位を継承することについて反対を唱える者は誰ひとりいなかった。
戴冠式への準備が進められていった。
☆☆☆
「いいかな?ディアナ?」
扉を開け、フランツが姿を現した。
その久しぶりの姿にディアナはどきんとした。
帰還してからというもの、フランツは戴冠式の準備やらで忙しく会えないでいた。
「フランツ皇子!」
嬉しさで声がうわずる。
くすっと微笑みを浮かべ、フランツが歩み寄る。
「少しいいかな?」
「もちろん!」
くるくると大きな黒い瞳がフランツが見つめる。
「どうしたの?」
ディアナの目の前で歩みを止めるフランツ。
薄青い彼の瞳にディアナがめいっぱいに写り込んでいる。
ディアナはフランツの言葉を待った。
「ディアナに聞いておきたいことがあってね。」
そう言うとフランツはそっとディアナを抱きしめた。
「覚悟はいい?」
どきん、として見上げる。薄青い瞳が優しい光を落としてくるようだった。
「覚悟?」
それは前にアイザックからも言われた言葉だと思い出した。
「どういうこと?」
「ディアナ。」
すっとフランツは身体を離した。
「ディアナ、きみは今も救いとしての役目を背負っているの?
シラーとのいざこざは解消され、私は間もなく王位を継承する。
伝説ではこれらを救いが成すように語られているが、その他にもきみが知っている続きがある?
ディアナ、きみはこれからも救いでいなければならないのだろうか?
私とともに歩むことは考えてもらえないだろうか?
私の隣に立って、私とともに歩んでほしい。
きみのために、、愛しいきみを抱きしめて大切に守りたいと思ったこともあった。
でもそれではきみという存在を無いものにしてしまう。きみのため、という私の身勝手な思いに過ぎなかった。
ディアナ、私とともに歩んでほしい。
私たちにできることを、私たちでこれからを築いていこう。ともに。
それは、きみの国へは帰れないということかもしれない。
それでも、きみは私を選んでくれるか?」
フランツは脚を折り、ひざまずいた。
ディアナの手を取り、優しく口づける。
「愛している。」
熱いまなざし。
「フランツ・・」
身体の芯からとろけそうなディアナ。
こくん。
ディアナは小さく頷いた。
フランツの瞳がふわりと揺れた。
こくん、こくん、とディアナはさっきより強く頷いた。
ふわっと抱き上げられるディアナ。
「きゃ!」
フランツがディアナを抱き上げた。
「もう離さない、誰にも渡さない。」
ディアナを抱えてふわっと回ったフランツ。
ディアナは落ちないよう慌ててフランツにしがみついた。
「ほんとうに、いいんだね?」
「ええ、ええ、フランツ。」
ぎゅっと抱きしめられる。
「フランツっ!」
目の前に迫ったその瞳が愛しくて、ディアナの胸が高鳴る。
フランツの鼓動も伝わってくるようだった。
香りが・・
身体の奥まできゅんとなるような香りが。。
ぁ、、
近づいた唇が・・触れそうなほど、すぐそばまで・・
身体の奥がきゅん、となる感覚。
「愛してる・・」
「わた・・しも・・」
くちびるがそっと触れ合う。
何度も、何度も、やさしい口づけを重ねる。
フランツはディアナを壁際の長椅子にそっと下ろした。
「本当はこのまま抱きしめていたいけれど、
今日はここまでで我慢するよ。大臣たちが待っている。」
フランツはディアナに熱い口づけをした。
長く、吐息が漏れるような激しい口づけだった。
「次は離さない。」
最初に出会ったときと同じように、フランツはどきっとするほど魅惑的な微笑を残して部屋を後にした。
残されたディアナは紅潮した頬を押さえ、火照る身体を持て余してしまう。
ほうっと甘いため息が漏れた。
☆☆☆
戴冠式は盛大に行われた。
国王は喜びのうちにその地位を愛する皇子に譲れて至福の表情だった。
国王となったフランツの隣にはディアナの姿があった。
ディアナは国王からフランツとの結婚を認められ、
王妃としてそばに立った。
戴冠した国王と、まだ若い王妃に
国民からの期待が注がれている。
ふたりはこれからの平安と繁栄を築いていくことを
その役目として国民の前で誓い合った。
首飾りの青い玉はその淡い光を消し、濃い藍色の玉のように見えた。
『この玉もまた、役目を果たしたということかもしれない』とフランツは思っていた。
みなそれぞれ、その場所でやるべきことがある、と伝説は言っているのかもしれない。
フランツの腕にディアナはそっと自分の手を重ねた。
微笑む彼女がそばにいることがフランツには何よりも心のよりどころとなっていた。
「ところで、この間の話だが、」
「え?」
「もう離さない。」
フランツはぎゅっと王妃を抱きしめた。
国民の拍手と祝福の花びらが舞う中、二人は誓いのくちづけを交わした。
おしまい
彼が王位を継承することについて反対を唱える者は誰ひとりいなかった。
戴冠式への準備が進められていった。
☆☆☆
「いいかな?ディアナ?」
扉を開け、フランツが姿を現した。
その久しぶりの姿にディアナはどきんとした。
帰還してからというもの、フランツは戴冠式の準備やらで忙しく会えないでいた。
「フランツ皇子!」
嬉しさで声がうわずる。
くすっと微笑みを浮かべ、フランツが歩み寄る。
「少しいいかな?」
「もちろん!」
くるくると大きな黒い瞳がフランツが見つめる。
「どうしたの?」
ディアナの目の前で歩みを止めるフランツ。
薄青い彼の瞳にディアナがめいっぱいに写り込んでいる。
ディアナはフランツの言葉を待った。
「ディアナに聞いておきたいことがあってね。」
そう言うとフランツはそっとディアナを抱きしめた。
「覚悟はいい?」
どきん、として見上げる。薄青い瞳が優しい光を落としてくるようだった。
「覚悟?」
それは前にアイザックからも言われた言葉だと思い出した。
「どういうこと?」
「ディアナ。」
すっとフランツは身体を離した。
「ディアナ、きみは今も救いとしての役目を背負っているの?
シラーとのいざこざは解消され、私は間もなく王位を継承する。
伝説ではこれらを救いが成すように語られているが、その他にもきみが知っている続きがある?
ディアナ、きみはこれからも救いでいなければならないのだろうか?
私とともに歩むことは考えてもらえないだろうか?
私の隣に立って、私とともに歩んでほしい。
きみのために、、愛しいきみを抱きしめて大切に守りたいと思ったこともあった。
でもそれではきみという存在を無いものにしてしまう。きみのため、という私の身勝手な思いに過ぎなかった。
ディアナ、私とともに歩んでほしい。
私たちにできることを、私たちでこれからを築いていこう。ともに。
それは、きみの国へは帰れないということかもしれない。
それでも、きみは私を選んでくれるか?」
フランツは脚を折り、ひざまずいた。
ディアナの手を取り、優しく口づける。
「愛している。」
熱いまなざし。
「フランツ・・」
身体の芯からとろけそうなディアナ。
こくん。
ディアナは小さく頷いた。
フランツの瞳がふわりと揺れた。
こくん、こくん、とディアナはさっきより強く頷いた。
ふわっと抱き上げられるディアナ。
「きゃ!」
フランツがディアナを抱き上げた。
「もう離さない、誰にも渡さない。」
ディアナを抱えてふわっと回ったフランツ。
ディアナは落ちないよう慌ててフランツにしがみついた。
「ほんとうに、いいんだね?」
「ええ、ええ、フランツ。」
ぎゅっと抱きしめられる。
「フランツっ!」
目の前に迫ったその瞳が愛しくて、ディアナの胸が高鳴る。
フランツの鼓動も伝わってくるようだった。
香りが・・
身体の奥まできゅんとなるような香りが。。
ぁ、、
近づいた唇が・・触れそうなほど、すぐそばまで・・
身体の奥がきゅん、となる感覚。
「愛してる・・」
「わた・・しも・・」
くちびるがそっと触れ合う。
何度も、何度も、やさしい口づけを重ねる。
フランツはディアナを壁際の長椅子にそっと下ろした。
「本当はこのまま抱きしめていたいけれど、
今日はここまでで我慢するよ。大臣たちが待っている。」
フランツはディアナに熱い口づけをした。
長く、吐息が漏れるような激しい口づけだった。
「次は離さない。」
最初に出会ったときと同じように、フランツはどきっとするほど魅惑的な微笑を残して部屋を後にした。
残されたディアナは紅潮した頬を押さえ、火照る身体を持て余してしまう。
ほうっと甘いため息が漏れた。
☆☆☆
戴冠式は盛大に行われた。
国王は喜びのうちにその地位を愛する皇子に譲れて至福の表情だった。
国王となったフランツの隣にはディアナの姿があった。
ディアナは国王からフランツとの結婚を認められ、
王妃としてそばに立った。
戴冠した国王と、まだ若い王妃に
国民からの期待が注がれている。
ふたりはこれからの平安と繁栄を築いていくことを
その役目として国民の前で誓い合った。
首飾りの青い玉はその淡い光を消し、濃い藍色の玉のように見えた。
『この玉もまた、役目を果たしたということかもしれない』とフランツは思っていた。
みなそれぞれ、その場所でやるべきことがある、と伝説は言っているのかもしれない。
フランツの腕にディアナはそっと自分の手を重ねた。
微笑む彼女がそばにいることがフランツには何よりも心のよりどころとなっていた。
「ところで、この間の話だが、」
「え?」
「もう離さない。」
フランツはぎゅっと王妃を抱きしめた。
国民の拍手と祝福の花びらが舞う中、二人は誓いのくちづけを交わした。
おしまい