落日の楽園(エデン)
 



 部屋に戻ると、ベッドに鞄を投げ、横になる。

 しばらく白い天井を見ていたが、やがてふと、視線を側の窓にずらした。

 夕空がそこに広がっていた。

『舞、昔、ノストラダムスの大予言ってあったの、知ってるか?

 あの、空から降ってくる恐怖の大王って、俺、酸性雨だと思うんだ。

 硫酸みたいな雨が、この世界のすべてをを溶かし尽くすんだ』

『やだ、怖いこと言わないでよ』

 そのとき、確かに自分はそう言った。

 だが、その恐ろしかったはずの酸の雨が、今は胸に焼きついて離れない。

 この社会のすべてを溶かしさるかのような雨。

 この世界の常識も規範もすべて、溶かしつくす雨。

 ―降ってもいいよ。

 舞は鮮やかな夕空に向かって呟いた。

 だけど、その前に教えて欲しい。

 明日で、この世界は終わりだよ、って。

 そうしたら……

 そうしたら?

 干上がった大地に撒かれた種が雨を待つように、舞は世界を壊す酸の雨を渇望していた。

 それが逃げだと知りながら―
< 13 / 65 >

この作品をシェア

pagetop