落日の楽園(エデン)
そして、中学二年の夏―
あの日は朝から雨が降っていたが、閉め切られた離れの介弥の部屋は、クーラーが効いていて涼しかった。
「舞」
「んー?」
変わったものずきの介弥に付き合って、バックギャモンをしていた舞は、サイコロを振った。
「お前さ、この間言ってた先輩どうした」
「先輩? 誰だっけ?」
舞はカーペットの上に寝転がったまま、盤上を見ていた。
えいくそ、またブロックされてるな、と思いながら。
その先輩のことなんか、本当に覚えていなかった。
告白されるのなんかしょっちゅうだから、別に気にも止めていなかったのだ。
だが、介弥は苛々したように訊き返す。
「ほら。テニス部の先輩だよ」
ああ、と舞は笑った。
そうそう、そんなこともあったっけ。
舞と介弥はテニス部に所属していた。
正確に言えば、舞がテニスを始めたので、介弥が追いかけるように入部してきたのだ。
とはいっても、学校は違うので、活動するのは別々なのだが、二人ともそこそこ強かったので、県大会などでよく顔を合わせていた。