落日の楽園(エデン)
「ああ。あの、介弥が尊敬してるとかっていう」

 舞の学校の三年生で、全国でも好成績をおさめる男がいた。

 介弥は彼のプレーを見て、尊敬していたらしいのだが、その先輩が部を引退する前に舞に告白してきたのだ。

 もちろん、舞は勉強が忙しいからと理由をつけて断った。

 舞が近くの有名進学校に入りたがっているのを知っていた彼はそれを本気にとって、それじゃあ、君の受験が終わったら、また返事を訊くから、と言ってきた。

 自分の方が受験生のはずなのに、律儀な人、と舞は思った。

 舞にとって彼は、その程度の認識でしかなかったが、介弥にとっては、そうではなかったらしい。

 彼にとっては、本当に憧れの人だったようなのだ。

 それをあっさりと意味のない理由をつけて、振ってしまう舞の心境が彼には不可解らしかった。

「介弥の番よ」

 床の上に広げられたゲーム盤を見たまま、動かない介弥に、舞は声をかける。

 だが、介弥は白黒の幾何学模様を見つめたままだった。

「介弥……」

 咎めかけた舞の言葉を、介弥が引き取る。

「舞。お前、なんで誰に告白されても、断るんだ?」

 なに言ってんの、と舞は気だるく起き上がる。
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