落日の楽園(エデン)
 介弥は同い年なのに、自分とは全然違う純真そうな鳶色の瞳を向けた。

「舞は自分がなんでもできて、なんの不足もなくて、誰にでもちやほやされるから。

 だから― 人のことなんてどうだっていいんだ」

「なによ、それ……。
 人を人でなしみたいに」

 他の人間ならともかく、介弥に言われるのは心外だった。

「たとえば、俺がいきなりお前の前から姿を消しても、お前は痛くも痒くもないんだろう?」

 介弥が私の前から居なくなる?

 そんなこと、考えたこともなかった。

「……そ、そんなはずないじゃない。
 なに言ってるのよ、ばかじゃない!?」

 他の誰が自分から離れていっても、介弥だけは、ずっと自分の側に居てくれると思っていた。

 たとえ、年月が経って、春日の両親も坂口の両親もこの世からいなくなっても、介弥だけは変わらず、自分の側に居ると思っていた。

 だけど、そうだ。そんなはずはない。

 介弥だって、いつか女の子を好きになって、付き合って、結婚して……。

 私から、離れていくんだ。

 気がついたら、舞は介弥を見つめていた。

 見慣れているはずの介弥の顔が、今日は違ってみえた。

 介弥は何も言わずに、こちらを見ていた。
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