落日の楽園(エデン)
「早くする」
休み時間、短く言い捨てる舞に、はーい、と返事しながら、亮子はA組の教室を覗いた。
「いないなー、沙知(さち)」
「まあ、妥当な線ね。沙知なら教科書全部置いてるだろうから」
そう呟いたとき、目の端に大きな男を捕らえた。
長身の舞が見上げるほどのその男に、教室の中を覗いてた亮子が気づいて、声を跳ね上げる。
「春日くん!」
無駄に端正な顔をした春日は、すっと通った鼻筋に、薄い銀縁の眼鏡を掛けているが、それがまた、厭味なほどよく似合っていた。
「春日くん、ごめん。もしかして、地理の教科書持ってないかな?」
亮子は可愛らしく手を合わせて春日に訊く。
ほんとうに可愛い、と思って舞は見ていた。
「地理? ああ、そういや、置いてたような……」
その返事に舞は呆れた顔をする。
「貴方ともあろう人が、教科書置きっぱなし?」