落日の楽園(エデン)
 



 桜の花が舞う頃、クラスわけのボードの前で亮子が叫ぶ。

「やったー、見て。舞! 同じクラスよ!」

 同じ中学から城誠に進学した生徒は、五人に満たなかった。

 舞は曖昧な微笑を浮かべて、それに答えた。

 うれしくなかったわけではない。

 義母と同じ名前なのに、無邪気な亮子は舞の心を落ち着かせるに充分な存在だった。

 だが、舞にはそれよりも気になることがあったのだ。

 介弥が城誠に合格したことは知っていた。

 舞も進学すると知って、母は行かせたくなかったようだが、何も知らない父は、名門進学校に息子が合格したことを素直に喜んでいたから、反対することはできなかったようだった。

 介弥……介弥、介弥介弥……っ!

 舞は強く心で念じながらも、きょろきょろと彼を捜すことはしなかった。

 そっとその目で、辺りを不自然でない程度に窺う。
< 43 / 65 >

この作品をシェア

pagetop