落日の楽園(エデン)
 介弥とはクラスは離れてしまっていた。
 なんとか遠くからでも、姿が見たい。

 もう介弥と恋人同士に戻るつもりはなかった。
 戻れるとも思っていなかった。

 それでも、姿だけは、遠くからでも見ていたかったのだ。

 さりげなさを装いながらも、舞の胸は高鳴った。

 だが、ボードを見て騒ぐ人波のなかに、介弥の姿はない。

 なによ、介弥。
 あんたは私のことなんて捜しもしないのね。

 馬鹿な八つ当たりをして、歯噛みしたとき、ばかっ、と頭に何かが当たった。

 舞は頭を押さえてしゃがみこむ。

「まっ、舞っ」
 亮子の声が慌てたように自分の耳の高さまで降りてくる。

 てんてん、と薄汚れたバレーボールが転がっていった。

 誰!? こんなところで、バレーなんかやってる馬鹿はっ!

 きっと、通ると思ってなかった城誠に合格した馬鹿者ねっ!

 すごい目付きで舞は振り向く。
 美人なだけに、その顔は怖かった。

 目の前にすらりと手足の長い男が立っていた。
 彼は照れたように頭を掻く。

「ああ。悪い。手許が狂って」

 聞き慣れていたはずの声が少し低くなっていた。

 最近では、正月などに会っても、親の目を気にして、口をきくこともなかった。

 急にしゃべらなくなった二人に、思春期なんてあんなものだと事情を知らない大人たちは勝手に納得していた。
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