落日の楽園(エデン)
 訊いてもいないのに、もう知っている内容を、ぺらぺらとしゃべり始める介弥の快活な笑顔に、舞はきょとん、と彼を見た。

 横で亮子は照れたように相槌をうっている。

 ―はじめまして?

 介弥の友人らしき男が、彼を肘でつっつく。

「いいじゃん。早く来たおかげて、同じく浮かれバカな俺様と友達になれて」

 男二人は顔を見合わせて笑っている。

 介弥の目が、舞を見た。

「あんたは?」
「は?」

「こっちが名乗ったのに、名乗らないのか?」

 そう言って、腕を組んで笑っていた。

 既に、介弥にポーッとなっている亮子が慌てて袖を引く。

 あなたが名乗らなきゃ、わたしが名乗れないじゃない、そういう勢いだった。

 それに押されて、舞は呟くように言った。

「坂口舞。
 F組よ……」

 そう、よろしく、と介弥は舞に手を差し出した。

 その手をそっと包む。あたたかくて、大きな手。

 舞は胸を詰まらせる。

 ようやく、介弥の意図がわかったのだ。
< 46 / 65 >

この作品をシェア

pagetop