落日の楽園(エデン)
「そんな簡単に放り出さないで。

 あんたはずっと両親に愛されてきたからわからないのよっ。

 実の親から離されて、育ての親には愛されなくて。

 ずっと願い続けた親の愛から突き放された人間の気持ちなんてっ」

 舞……と困ったような介弥が頭の上で呟く。

 違う違う。恨み言を言いたいんじゃない。

 あんただけはその中に居て欲しいと思うから。

 あんただけは、ぬくぬくとした幸せの中に居て欲しいと願うから。

 コンクリートに、窓に、雨が打ちつける音を聞きながら、そのままじっとしていた。

 雨の音で何も聞こえない。

 世界にはきっともう私たちしか居ない。

 そんな何度も願った妄想に取り付かれる。

 だが、舞は振り切るように、顔を上げた。

 これ以上一秒でも一緒に居たら、二度と離れられない気がしたから。
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