落日の楽園(エデン)
「行って。
 お父さん、待ってる―」

 介弥は舞の顔を見つめていたが、やがて背を向けた。

 これ以上、自分が此処に留まることは、舞を苦しめるだけだと思ったようだ。

 そう、彼は優しいから。いつも私を責めはしない。

 責めて― 欲しいのだろうか。

 彼の我儘という形を借りてでも、踏ん切りのつかない自分を、何処か遠くへ連れ去って欲しいと思っていたのだろうか。

 こんなやさしい茶番を演じ続けるのではなく。

 遠くへ行きたい。

 何処か遠くへ。

 誰も私たちを知らないところ―

 十四のときに願ったことを、性懲りもなく、しつこく願い続けていた自分を知った。

 人が見ている私なんて幻だ。

 本当の私は、こんなにも情けなく、みっともない。

 介弥は薄汚れた白い木のドアの前に立っていた。

 その目は、足許の絵画を見ていた。

「それ― エデンだろう?

 文明が滅びたあとの新しいエデン」

 介弥の指の先に、緑の楽園が広がっていた。

 どんな法律も秩序もない世界。

 誰も私と介弥を縛れない世界。

 幻のエデン―
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