落日の楽園(エデン)
 ああ、そうだ。
 これこそが、私の描いていた未来だった。

 世界を滅ぼす酸の雨。

 だけど、私は、その後に、こんな幻のエデンができあがることを祈っていたのか。

「今の文明が消えたあとの、エデン……。
 それでも、そこにもお前は居ないのな」

 その言葉に、はっとした。

 介弥は鈍く光る銀色のノブに触れた。

「じゃあな、坂口。
 お前も行く気になったら来い」

 そう言って、舞に背を向ける。

 介弥……。

 これで最後かもしれない。
 ふとそう思った。

 介弥は今まで、よく我慢してくれていた。

 いくら我慢強い彼でも、もうこんな強情な女、疲れたに違いない。

 私だったら、嫌だ。

 私みたいな、頑固で依怙地で、辛いこと、嫌なこと、みんな介弥に押しつけて―

 今の状況も介弥に作り出してもらったくせに、突っ撥ねてばかりで。

 舞は、その緑の中の介弥を見つめた。
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