落日の楽園(エデン)
 

 
 昇降口にまだ介弥は居た。

 外の薄暗い空気の中で、靴を出している。

 通りかかった社会科の先生が、なんだお前、まだ居たのか、と言っていた。

 介弥はそれに笑顔で答えようとしている。

「介弥!」

 すぐに介弥が振り返る。

 まるでそれを待っていたかのように。

 教師と側に居た生徒たちが、こちらを見た。

 舞は息を切らして駆け寄る。

 下駄箱のある場所まで下りずに見上げても、もう、とうの昔に追い越された身長差を感じる。

「わたし……」

 何を言ったら、いいんだろう。
 なんて言ったら、いいんだろう。

 うまく言葉は出てこない。

 だけど、介弥は表情の読みとれない顔だが、じっと舞の言葉を待っていてくれた。

 だから言うんだ。
 ただ、今、思っていることをすべて。

 ずっと思ってきたことをすべて。

 それで、思いが通じても、通じなくてもいい!
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