落日の楽園(エデン)
「わたし……本当はずっと思ってたの。
 この世界が滅びてしまえばいいのにって。

 むかし、介弥が言ってた酸の雨。
 あれが世界を溶かしてしまえばいいのにって。

 そう、思ってた。

 ある日ね、天気予報で言うの。

 明日、酸の雨が降るから、この世界は終わりだよって。

 そうしたら……」

 舞はそこで、言葉を止めた。

「……そうしたら?」
と介弥が囁くように聞いた。

「そうしたら―

 ずっと、介弥と一緒に居るの。

 だって、明日で世界が終わるなら、もう誰も私たちを責めないでしょう?」

 無表情だった介弥の顔が崩れた。
 声を立てて笑い出す。

「……なっ、なんで笑うのよっ」

 私がずっと真剣に考えていたことをっ、と動揺して介弥を睨んだ。

 近くまで寄ってきた介弥はまだ、喉の奥で笑いながら呆れたように言った。

「お前らしいな。現実逃避も徹底してる。
 でもなんで、『明日』なんだ?」
< 57 / 65 >

この作品をシェア

pagetop