落日の楽園(エデン)
「あー、今日はいい一日だった」
お弁当箱を前に亮子は祈るように蛍光灯を見上げた。
「まだ一日終わってないわよ」
晩御飯の残りものの、やけにゴージャスなおかずをつつきながら舞は言う。
フランス料理はお弁当には合わないと思うが、まあ、単に、新たにお弁当のためにおかずを作るのが面倒だったのだろう。
それは昨日、母が料理教室で作ってきたものだった。
「だってえ、春日くんとあんな間近で会話できたんだよ」
はははー、と聞いていた沙知が笑う。
「私なんか同じクラスだもんね。いつでも見られるよー」
三人はいつも舞たちのこの教室でお弁当を食べることにしていた。
そんなに春日が好きなら、A組で食べるようにしたら、と厭味まじりに提案したことはあるのだが、緊張して喉を通らなくなるからと言われた。
それほどの男かな、あれが―
舞はヤカンから注いで来ていたお茶を飲む。
湯気が顔に当たって、コンタクトで乾燥気味の目が潤った。