今、鐘が鳴る
涙を滂沱し続ける私を再びベッドに寝かせ、泉さんがのしかかってきた。
「天国にイカしたるわ。」

ビクッと大きく私の身体が痙攣した。

こんな時なのに、たまらなく気持ちよくて……。
私は自分の罪深さを改めてまざまざと感じた。
もう、やだ。
比喩じゃなくて、本当に首を絞められて死んでしまいたい。

私は、無意識につぶやいた。
「……死にたい……殺して……首、締めて……」

泉さんの顔が悲しい顔になったように見えた。
「そんなこと言うな。」

私は余力を振り絞って首を横に振った。
「もう……無理……」
泉さんの手を私の首に誘(いざな)う。

その手に力が込められることはなく、熱い雫が降ってきた。
泣いてる?
ふふっ……と、自分も泣いてるくせに、笑いがこみ上げてきた。
本当に心も身体も1つになれた気がした。

いつもなら、行為の後、泉さんは私を抱きしめたまま眠った。
でも今日は、お互いに強く抱きしめ合ってから、離れた。

「先、行くわ。裏にタクシー呼んでもらうから、百合子は後からゆっくり出ぇ。」
そう言って、泉さんはシャワーも浴びずに手早く服を着て、出て行った。






小倉メディアドームで開催される競輪祭の初日の特選レースで、泉さんは落車した。
捲(まく)ってきた選手を止めようとして外に振ったのだが、空振りしてバランスを崩してカントのきついコーナーで滑り落ちてしまった。
泉さんらしからぬ失態だった。

身体は大丈夫のようだし、自転車も壊れてないらしい。
特選レースなので、とりあえず失格さえしなければ、勝ち上がることができた。



二次予選の日、東京駅ホームに迎えに来てくれた碧生(あおい)くんは全てを心得ているような雰囲気だった。

毎夜スカイプで話していたので、何らかの変化を察知していたのかもしれない。
「あ~あ~。そんな打ちひしがれた顔しちゃって。おいでおいで。」

碧生くんは私の荷物を左手に持ち、右手で私を抱き寄せた。
「可哀想に。」
心からそう行ってくれる碧生くんに、私の涙腺が決壊する。

お門違いなのに、碧生くんにしがみついて声をあげずに泣きじゃくった。
「ごめんなさい……ごめん……」

謝ることしかできなくて、ひたすら謝り続けて泣いた。


「予定変更、でいいよね。どこに行きたい?」
少し落ち着いてから、碧生くんの車に移動した。

「……2人きりになれるとこ。」
碧生くんの腕にぎゅーっとしがみついて、顔をなすりつけてそう言った。

「了解。日比谷でいい?」
いつも私が母と泊まるホテルを挙げてくれたけど、
「……碧生くんのお部屋がいい。」
と、おねだりしてみた。

「そんなにイイトコじゃないよ?狭いし。」
そう言っていたけれど、実際に到着した碧生くんのお部屋は、新築のデザイナーズマンションだった。
狭いと言っても、和室まであって驚いた。

「仕舞いのお稽古してるから。本も多いし。」
碧生くんはしれっとそう言ったけど、別にフローリングのワンルームでも仕舞いはできるだろうに。

……実際、本は多かったけど。
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