今、鐘が鳴る
翌日は、午前中から東大の駒場祭に連れてってもらった。
碧生(あおい)くんは5月に宣言してた通り、逢う人逢う人に私を恋人と紹介して回った。
冷やかされることにはすぐ慣れたけれど、いかにも碧生くんに気がありそうな女子の動揺や嫉妬は堪えた。

「……やっぱりモテてるじゃないの。すごい目で見られたわよ、さっきも。」
ブランチにホイップクリームたっぷりのパンケーキを2人でつつきながら、文句を言ってみた。

「まあ、さっき紹介した何人かは未練があるみたいだね、確かに。でも却ってよかったよ。ちゃんと百合子の存在が認知されたら、諦めてくれるだろ。」
……そうだといいけど。

むーんとふくれていると、碧生くんはフォークにさしたケーキを私の口元に差し出した。
「機嫌直して。あーん。」
「もう、いらない。生クリーム多すぎて気持ち悪くなっちゃた。」

顔をそむけてそう言うと、碧生くんはクリームをぺろりと舐め取ってから、もう一度差し出した。
「どうせなら口移しがいい。」

困らせるつもりでそう言ったのだが、碧生くんはちょっと笑って本当に自分の口に入れて、私を抱き寄せた。

慌てて逃げようとしたけれど、碧生くんが魅惑的過ぎて……結局、私は目を閉じて、食べさせてもらってしまった。


「……仲良きことは美しきかな?……しかし、百合子がねえ……碧生くん、ちょっと甘やかし過ぎじゃない?」
呆れたような声がすぐそばで聞こえて、驚いて目を開けた。

「恭匡(やすまさ)さん!ごきげんようっ!」
慌てて立ち上がって、お辞儀をした。

「いいやんか。幸せそうでよかった~。お久しぶり、百合子さん。」
恭匡さんの腕を引っ張るように、背後から由未さんが現れた。

「由未さんも、ごきげんよう。今夜はお邪魔しますが、よろしくお願いします。」
笑顔で由未さんと挨拶できることがうれしかった。



4人で構内を回り、夕方、恭匡さんの車でお家へと向かった。
「はーい。じゃ、炭、熾(おこ)してね~。」
由未さんは恭匡さんにそう言って、お台所に消えた。

恭匡さんは、慣れた手付きで囲炉裏と七輪に火を熾した。
「あの、私もお手伝いしたいのですが……」

てっきり、家事はりかさんというお手伝いのかたがやってくださってると思ったら、りかさんにはお掃除しかお願いしてないらしい。

なんと、お洗濯は恭匡さん!お料理は由未さんが全部しているそうだ。
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