今、鐘が鳴る
「そんな植物、あるんですか?しぶといわ……」
「ほんとにね。放置すると3年ぐらいは木にしがみついてるよ。1本の木に3年分の実がついてるのって、すごくない?だから橙は『代々』とかけて縁起のいい植物とされてるんだよ。青く戻るから「回青橙(かいせいとう)」とも呼ばれるけど。」

恭匡さんはそこまで言ってから、膝を詰めた。

「百合子が碧生くんと結婚するのなら、天花寺(てんげいじ)に迎えてもいいと思ってる。」
言葉の意味が分からなくて、私は恭匡さんを見つめた。

「僕らの夫婦養子になればいい。君たちの子供に天花寺を継がせたい。」
……ますます意味がわからない。

私は無意識に碧生くんを探した。

碧生くんなら、いつものように、私に理解できるように説明してくれるだろう、と。


「やすまっさん!先走り過ぎ!俺まだプロポーズOKもらってないってば!百合子を追いつめないでくれる?」
一升瓶を抱えて私達を呼びに来た碧生くんは、恭匡さんから話を聞いてそう文句を言った。

「え?まだなの?付き合ってるのに?」
驚く恭匡さんに、碧生くんは口をとがらせた。

「しょうがないじゃん。遠距離だし、時間がかかるんだよ。」
「ふ~ん。じゃあ、百合子、何も聞いてないんだ。碧生くんが百合子と結婚するなら、うちの書をやってもいいよ~、って言ったんだけど。」

書?天花寺の書風を?
……小さい頃からどんなにお願いしても、学ばせててくれなかったのに……。

「あ~もう!そういう付加価値なしで百合子に必要とされたいんだから!ほっといてよ!」

恭匡さん、本気で碧生くんのことを評価してるんだ。
……碧生くん……母も私も飛びつきそうな好条件を敢えて伏せてたんだ。

改めて私は碧生くんを眺めた。
一見チャラい今風のイケメンだけど、礼儀正しくて、日本文化に精通してて、でもところどころアメリカ人で、頭がよくて……優しい人。

自分に自信があるんだろうな。

……泉さんとは……正反対。


「先のことは、わかりません。」
私は、お酒を飲んでじゃれ合ってる恭匡さんと碧生くんに向かって言った。

「でも、今は、碧生くんとの未来を楽しみにしています。早く京都に来てほしい、って思ってます。」
私の言葉に、恭匡さんが首をかしげた。

「百合子、頭かたいなぁ。逆の発想はないの?百合子が2年休学して東京に来ればいいのに。そしたら一緒にいられるよ?」

……思ってもみなかった。

私が、京都を、親元を離れる?

そんな選択肢もあるの?
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