今、鐘が鳴る
有名人でも来たのかしら?
黄色い声がこっちへ移動してくる。
騒がれているのは、端正な青年僧のようだった。
「暎慶(えいけい)さん。相変わらず、人気者ですね。」
知織さんが僧に言った。
「おかげさまで。もう下手な変装は通用しませんので、開き直って参りましたよ。おひいさまもお変わりないようで。」
……僧の名前が暎慶さん、知織さんがおひいさん……有名なお坊さんなのかしら。
碧生くんが隣で息を飲んでから、口を開いた。
「てる。 It’s been such a long time.」
いきなりの英語に、私は置いていかれた。
「 Wow!……It’s been ages, hasn’t it?」
碧生くんに「てる」と呼ばれた暎慶(てるよし)さんこと暎慶(えいけい)さんは、最初は首を小刻みに振るように肩をすくめて目を見開いたが、同じように英語で会話をし始めた。
流暢な会話に、私は完全にお手上げ。
「It’s been quite a while. How's it going with you? Is everything ok? 」
「Thanks for asking. I am pretty fine. What about you? 」
「The same as usual.」
「 Do you see anyone you like?」
「Ha-ha!……in search of long term relationship, and you?」
全く聞き取れないので、椅子に座ろうとしたところで、碧生くんが私の肩を抱き寄せた。
「This is Yuriko, my significant other.」
よくわからないけれど、紹介されたらしい。
「So elegant!はじめまして。大村と申します。ゆりこさん?」
「ごきげんよう。はじめまして。百合子です。」
何を言えばいいのかわからないので、とりあえず当たり障りのないご挨拶をした。
「てるさん、美形青年僧ね。彼に迫られてよく落ちなかったわね、碧生くん。」
席についてから、思わずそう耳打ちしてしまうぐらい静かな迫力のあるお坊さんだった。
「半落ち?流されそうになったよ。でも、俺、女の子がいい。」
しれっとそう言う碧生くんに苦笑いした。
「エーオウィって何?何度か言ってらした気がするけど、意味がわかんなかった。」
「あおいって欧米人には発音しにくいんだよ。訂正しないと、エイオゥィって感じになる。」
碧生くんのことだったんだ。
どうりで会話の中に何度も出たわけだ。
「まあでも、気まずくならずに挨拶できてよかったよ。ずっと気になってたから。」
肩の荷を下ろせたような晴れやかな笑顔の碧生くんに改めてときめくとともに、私の知らない碧生くんをとりまく世界に対して言いようのない淋しさを覚えた。
……過去はしょうがないのに……自分のワガママが嫌になる。
黄色い声がこっちへ移動してくる。
騒がれているのは、端正な青年僧のようだった。
「暎慶(えいけい)さん。相変わらず、人気者ですね。」
知織さんが僧に言った。
「おかげさまで。もう下手な変装は通用しませんので、開き直って参りましたよ。おひいさまもお変わりないようで。」
……僧の名前が暎慶さん、知織さんがおひいさん……有名なお坊さんなのかしら。
碧生くんが隣で息を飲んでから、口を開いた。
「てる。 It’s been such a long time.」
いきなりの英語に、私は置いていかれた。
「 Wow!……It’s been ages, hasn’t it?」
碧生くんに「てる」と呼ばれた暎慶(てるよし)さんこと暎慶(えいけい)さんは、最初は首を小刻みに振るように肩をすくめて目を見開いたが、同じように英語で会話をし始めた。
流暢な会話に、私は完全にお手上げ。
「It’s been quite a while. How's it going with you? Is everything ok? 」
「Thanks for asking. I am pretty fine. What about you? 」
「The same as usual.」
「 Do you see anyone you like?」
「Ha-ha!……in search of long term relationship, and you?」
全く聞き取れないので、椅子に座ろうとしたところで、碧生くんが私の肩を抱き寄せた。
「This is Yuriko, my significant other.」
よくわからないけれど、紹介されたらしい。
「So elegant!はじめまして。大村と申します。ゆりこさん?」
「ごきげんよう。はじめまして。百合子です。」
何を言えばいいのかわからないので、とりあえず当たり障りのないご挨拶をした。
「てるさん、美形青年僧ね。彼に迫られてよく落ちなかったわね、碧生くん。」
席についてから、思わずそう耳打ちしてしまうぐらい静かな迫力のあるお坊さんだった。
「半落ち?流されそうになったよ。でも、俺、女の子がいい。」
しれっとそう言う碧生くんに苦笑いした。
「エーオウィって何?何度か言ってらした気がするけど、意味がわかんなかった。」
「あおいって欧米人には発音しにくいんだよ。訂正しないと、エイオゥィって感じになる。」
碧生くんのことだったんだ。
どうりで会話の中に何度も出たわけだ。
「まあでも、気まずくならずに挨拶できてよかったよ。ずっと気になってたから。」
肩の荷を下ろせたような晴れやかな笑顔の碧生くんに改めてときめくとともに、私の知らない碧生くんをとりまく世界に対して言いようのない淋しさを覚えた。
……過去はしょうがないのに……自分のワガママが嫌になる。