今、鐘が鳴る
「竹原さん、怖いね~。穏やかな紳士然とした笑顔なのに目が笑ってないの。俺、思いっきり値踏みされてたよ。百合子の相手にふさわしいか懐疑的みたい。」
「いつもよ。慇懃無礼なのよ。母に対しても、私に対しても。」
……なのに、母と竹原はまだ繋がっている……由未さんの病の話を母がどこから聞きかじったのか……考えないようにしてても自明の理な気がする。
「由未の兄貴は、オトナだね~。やすまっさんが嫉妬するの、納得。」
碧生くんは軽い口調でそう言ってから、ことさら低い声で言った。
「泉さんより、あの兄貴のほうがヤバい気がした。」
……反応できない。
私は黙ってうつむいた。
「否定してよ。」
碧生くんの声に、ちょっと苛立ちが含まれた。
今までに感じたことのない棘と毒に、胸がズキッとした。
否定って、どんな風に?
泉さんだってヤバいと思うけど……。
義人さんとは過去の話よ?
もう絶対ないわ?
……何を言っても嘘になりそう。
私は開き直った。
「私も、今日は、嫉妬しました。私の知らない碧生くんを知る人の存在に。英語を話す碧生くんは、手の届かない人に思えました。」
碧生くんは返事しなかったけれど、信号で止まった時にキスしてきた。
そのまま左手を繋がれる。
……言葉はないけれど、それだけでわだかまりが溶けていく気がした。
「ごめん。……余裕なくなってた。」
京都に入る頃、やっと碧生くんがそう言った。
いつもの優しい声に戻っていた。
「ええ。」
仕方ないと思う。
私は、それだけのことをしてきた……。
今後もこんな想いをすることだろう。
全て、因果応報。
甘んじて受け入れるしかない。
碧生くんの肩にそっともたれた。
「私、碧生くんがいないと、自分の言いたいことも満足に伝えられないみたい。情けないわ。」
「……どうしたの?」
「知織さんに、また参加させていただきたいって言えなかったの。」
しょんぼりする私に、碧生くんはぷっと吹き出した。
「大丈夫だよ。そんなの。……招待してもらってばかりでは悪いから次はチケットの代金を払いたいけれど却って失礼かも……とか、考え過ぎた?」
……その通りかもしれない。
私自身が形と言葉にできない葛藤をもくみ取ってくれる碧生くんに、私はぎゅっとしがみついた。
子供のように依存している。
違うな……安心して子供のような自分をさらけ出せる。
ずっとずっと、そばにいてね。
「いつもよ。慇懃無礼なのよ。母に対しても、私に対しても。」
……なのに、母と竹原はまだ繋がっている……由未さんの病の話を母がどこから聞きかじったのか……考えないようにしてても自明の理な気がする。
「由未の兄貴は、オトナだね~。やすまっさんが嫉妬するの、納得。」
碧生くんは軽い口調でそう言ってから、ことさら低い声で言った。
「泉さんより、あの兄貴のほうがヤバい気がした。」
……反応できない。
私は黙ってうつむいた。
「否定してよ。」
碧生くんの声に、ちょっと苛立ちが含まれた。
今までに感じたことのない棘と毒に、胸がズキッとした。
否定って、どんな風に?
泉さんだってヤバいと思うけど……。
義人さんとは過去の話よ?
もう絶対ないわ?
……何を言っても嘘になりそう。
私は開き直った。
「私も、今日は、嫉妬しました。私の知らない碧生くんを知る人の存在に。英語を話す碧生くんは、手の届かない人に思えました。」
碧生くんは返事しなかったけれど、信号で止まった時にキスしてきた。
そのまま左手を繋がれる。
……言葉はないけれど、それだけでわだかまりが溶けていく気がした。
「ごめん。……余裕なくなってた。」
京都に入る頃、やっと碧生くんがそう言った。
いつもの優しい声に戻っていた。
「ええ。」
仕方ないと思う。
私は、それだけのことをしてきた……。
今後もこんな想いをすることだろう。
全て、因果応報。
甘んじて受け入れるしかない。
碧生くんの肩にそっともたれた。
「私、碧生くんがいないと、自分の言いたいことも満足に伝えられないみたい。情けないわ。」
「……どうしたの?」
「知織さんに、また参加させていただきたいって言えなかったの。」
しょんぼりする私に、碧生くんはぷっと吹き出した。
「大丈夫だよ。そんなの。……招待してもらってばかりでは悪いから次はチケットの代金を払いたいけれど却って失礼かも……とか、考え過ぎた?」
……その通りかもしれない。
私自身が形と言葉にできない葛藤をもくみ取ってくれる碧生くんに、私はぎゅっとしがみついた。
子供のように依存している。
違うな……安心して子供のような自分をさらけ出せる。
ずっとずっと、そばにいてね。