今、鐘が鳴る
会場は、大学のキャンパスの最寄り駅ではなく、西大寺のチェーン店の居酒屋。
……自分からは絶対行かないお店。

私は、なるべく教授の側に座って、一次会が終わったらすぐに帰るつもりだった。
が、まず座席をくじ引きで決めると言われてしまった。

ゼミの女子の割合は4分の1……たかがコンパの席順でも、確かに男子にとっては大事なのかもしれない。
私がくじを引いて番号を見せると、男性陣が色めき立った。

よくわからないけれど、背後が壁で店内を見渡せる席だった。

18時ちょうどに教授が到着される。
「とりあえずビール」と言われて、みなさんと同じ生ビールを注文。

乾杯して口を付けると、ビールじゃなくて発泡酒で美味しくなかった。
私はそれ以上飲むのはやめて、温かいお茶をいただき、添加物まみれの解凍料理を少しつまんだ。

……美味しくない。
恭匡さんほどではないけれど、私の舌もココまで酷い薬品だらけのお料理は拒絶した。

「橘さん、お酒弱い?あまり食べてへんみたいやし。何か食べたいものあれば、頼みや。」
幹事らしい人にそう言われても、私は曖昧な会釈と微笑で誤魔化した。

しばらくすると、みんなが席を移動し始めた。
私の周囲にも先輩がたが群がる。

たぶん聞かれるだろうと思っていたけれど、当然のように聞かれた。
「彼氏いるん?」

私は敢えてニッコリ笑った。
「はい、います。」

一瞬しらんだ空気をモノともせず、幾人かは突っ込んで聞いてきた。
「え~?でもキャンパスで見たことないで、嘘ちゃうん?」
「社会人?」

嘘と言われてムッとしたけれど、お茶をひとくちいただいてから、すまして答えた。
「東京の大学に通ってます。」
微妙な空気が流れた。

大学名まで聞く人もいれば、遠距離恋愛がいかに時間と労力とお金の無駄かを説いて別れさせようとする人もいたけれど……そんなことは一瞬で頭から飛んでしまった。

泉さん!!!
何で!?


「いらっしゃいませー!8名様ご案内しまーす!」
元気な女性アルバイトが声を張り上げて店の中にゾロゾロとたくましい集団が入ってきた。
真ん中ぐらいに泉さんが、その後ろに水島くんがいた。
みなさん、競輪選手なのだろうか。

彼らは通路を挟んで向かい側のお座敷に案内された。
水島くんはこちらに背中を向けて座ったけれど、泉さんはばっちりこっちを向いて座った。

……すぐに目が合った。
気づかれた!
どうしよう!
私は慌てて、周囲の先輩がたの話を熱心に聞くふりをした。

泉さんはちょっと薄笑いを浮かべて度々私を見ていた。

私もまた……泉さんに目を奪われた。
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