今、鐘が鳴る
聞いたことはあるけれど、実際に参加するのははじめてで、私はどうすればいいのかわからず、思わず泉さんを見た。

泉さんは顔をしかめて、手を自分の顔の前で小さく振ってから、くいっと親指を立てて出口を指した。

……あかんあかん、やめとき。出よう……って意味?

うなずいて立ち上がろうとしたけれど、既に割り箸が回ってきて、ゲームはスタートしていた。

王様の割り箸を引いたヒトが、
「9番、男子やったら上半身裸!女子やったらブラだけ取って-!」
と、ニヤニヤと笑って言った。

……何、それ?
目を見開き硬直する私以外は、みんな楽しそうにキャーキャー盛り上がっている。

王様の役はどんどん変わるけど、その命令はちょっと信じられないような性的なものへとなっていた。

同級生も先輩も、普段の顔じゃなくなってる。
怪しい色気を漂わせて、いやらしくからみついている。

ポッキーを両端から食べる、飴を口移し、キス、揉む、ベロチュー……絶対嫌!

目くじらを立てているのは私だけのようで、男子も女子も無茶な要求をこなしては拍手喝采。
何が楽しいのか全く理解できない。

「あの、これ……私、とてもできません。帰ってもよろしいですか?」
小声で幹事さんにそう言うと、彼は大真面目に言った。

「あかんて。今さら抜けられたら場がしらけるやん。もし、できひんかったら、焼酎をお猪口1杯一気飲みで勘弁したげるから、もうちょっと付き合い。」

……泣きそう。

「こういうゲームってよくあることなんですか?」
重ねてそう聞くと、彼はにやりと笑った。

「毎回じゃないで。でも橘さんみたいに、普段、近寄れへん子ぉがいる時は、強引に王様ゲームに持ち込みたい男子は多いんちゃうか?」

……私?
「困ります……こんな……。」

ああ、教授と一緒にさっさと帰ればよかった。
こんなわけのわからないいやらしい遊びに付き合うぐらいなら、泉さんにつかまったほうがずっといい。

……比較になんかならない……泉さんがいいに決まってる。
恐る恐る泉さんを見る。
泉さんはウィスキーを舐めながら、顔をしかめるような半笑いで私を見ていた。
映画のレット・バトラーのような皮肉な笑いは気に入らないけれど、この馬鹿な集団の誰よりも素敵に見えた。

とうとう、私の番号が呼ばれた。
「4番と10番が、5秒間ディープキス!」
……絶対無理。

「4番!焼酎いただきます!」
私は叫ぶようにそう宣言し、化学的に作られた有名メーカーの全く美味しくない焼酎をあおった。

30度の焼酎は、口の中のみならず、食道や胃でも焼けるように熱く感じた。
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