今、鐘が鳴る
結局、私はお猪口に4杯の焼酎を飲むはめになった。
頑として王様の命令には従わなかったが、さすがにお酒が回ってふらふらになってしまった。

「お手洗い……行きます……」
這うように座敷を抜け出し、通路に降りた瞬間、クタッと座り込んでしまった。

「大丈夫?ついてくわ。」
先輩の1人が私を支えて歩かせてくれた。

「けっこうです……」
触らないでください、と言ったつもりだったが、目も口も、自分の意志を裏切って閉じていく。

「危ないって。いいから。」
左右からと背後からいくつもの手が伸びてきて、私をガッチリとホールドした。

……ちょっと……変な感じ。
引きずられるように通路を進んでく。

「ありがとうございましたー。」
お店の人の声に、驚いて顔を上げると、トイレではなくお店の玄関。
何で?

「……このお店、外にもお手洗いがあったんですか?」
真冬の夜の空気は冷たくて、ぼんやりした頭が少しクリアーになってきた。

4回生の先輩が3人、今まで見たことのない下卑た笑顔をしていた。
「橘さん、これじゃ帰れんやろ。俺ら、送ったるわ。」
「……けっこうです。」

私は彼らから離れようとしたけれど、完全に両腕と腰をつかまえられていて、逃げられない。
これって、まずいよね?

「でもしんどそうやで?うち、近いし、休んで行きーな。」
いわゆる、お持ち帰り、って状況?

「けっこうです。」
もう一度そう言ったけれど、彼らはますますニヤニヤと笑いながら、私の身体に手を這わした。
「大丈夫やって。嫌なことはせえへんし。一緒に遊ぼう。」
「嫌です!」

もうっ!!!

私はお店のほうを振り返って叫んだ。
「助けてくださいっ!ねえっ!」

先輩がたは私がお店の人を呼んだと思ったのだろう。
慌てて私の口を手で塞いだ。

その手に噛みつこうか、足を踏もうか、逡巡してると、やっと私の待っていた人が来た。
とっくにお店を出て待ち構えていたらしい。

「クソガキどもが、何やっとんねん。」
泉さんが、尖った顔に青筋を立てて怒っていた。

「いふひふぁう!」
……泉さん、と言ったつもりだったけれど、口を押さえつけられていて上手く言えなかった……もしかしたら酔いもあったのかもしれない。

泉さんは、威圧感たっぷりに近づいてきた。
「その馬鹿女(ばかおんな)から手ぇ放せや。そいつは、俺の女や。」

そう言いながら泉さんは、私の右腕を捕まえていた先輩の胸ぐらを掴み上げた。

他の2人も慌てて手を放したので、私はその場にへにゃっと座り込んだ。
< 130 / 150 >

この作品をシェア

pagetop