今、鐘が鳴る
「せめて『元(もと)』をつけてくださいません?それに馬鹿女ってどういう意味ですの!?」
怖くて、口惜しくて、恥ずかしくて、私は、ついそう泉さんに八つ当たりした……これも酔っ払いゆえだろうと思う……思いたい。

「あぁん!?馬鹿女に馬鹿女言うて何が悪いねん!こいつらだけちゃうわ!クソガキどもがどんな目で百合子を見てたか、気ぃつけよ!アホが!さっさと抜けへんお前が悪いんじゃ。自業自得や。」

泉さんは、胸ぐらを掴んでた先輩を突き飛ばすように手を放し、私のすぐそばにしゃがみこんだ。
「大丈夫か?吐かんといてや。」
そう言って、泉さんは私をお姫さま抱っこした。

たくましい腕と胸筋、首筋に、私は言いようのない安心感に包まれて、泉さんの首にしっかりと両腕を回した。

「ふわふわ、気持ちいい~。」
クスクスと小さな笑いがこみ上げてきて、泉さんの首や肩にすりすりと頬ずりした。

すっかり甘えてる私に呆れたのか、泉さんにビビったのか、3人の先輩がたは完全に戦意喪失して所在なさ気に立ち尽くしていた。

「こいつのお守りは俺がするわ。この馬鹿女が期待させて、悪かったな。」
泉さんは彼らにそう言った。

「また馬鹿女、言うた~。ひどい~。しかも泉さんが謝る意味がわかんな~い。私を助けてくれたんじゃないの?」

私がぶりぶり文句を言うと、泉さんは、なんと、私に冷たい視線を寄越して怒鳴った。
「あんなもん、全部お前が悪いわっ!飲み会には飲み会のルールがあるやろが!ルールが守れへんのやったら、最初から王様ゲームなんかするな!さっさと帰れ!」

……愕然とした。
あんなくだらない、下品なゲームでも……私は空気をぶち壊して、場を悪くしたの?

納得できない部分も多かったけれど、自分が隙だらけだったことは認めるし、他の女子達のように上手く立ち回れなかったことも確かなので、私は少し反省した。

「ごめんなさい……」
しょんぼりして、彼らに向かって一応そう言った。

先輩がたは逆に恐縮して謝ってくれた。
「いや、俺らも悪のりし過ぎたから。」
「橘さんが入学した時から狙ってたのにチャンスがなかったから、つい……」

平謝りする先輩がたに、泉さんは鼻で笑った。
「やっぱり女は愛嬌やで。こんな馬鹿女、やめとき。ほな行くわ!」

「……あ、あの、ごきげんよう!」
先輩がたにそう会釈した。
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