今、鐘が鳴る
週末、母と2人で東京に行った。
母は色留袖を選び、私にも華やかな振袖を着せた。
……それだけでも、母にも気合いが入っていることがよくわかった。
いつもならホームに出迎えてくれる碧生(あおい)くんの姿はない。
今頃、舞台で場当たりをしてるだろう。
わかっているのに、少し淋しく感じる。
ちょうど1年前は、碧生くんの出迎えに舌打ちしたのに……と、思い出し笑いをした。
駅からタクシーで能楽堂へ向かう。
母は緊張しているらしく、いつもより口数が少なかった。
……可愛い甥と、可愛がっている碧生くんの舞台……緊張するなと言うほうが無理かもしれない。
能楽堂に到着すると、母は当然のように楽屋口から入って行った。
恭匡(やすまさ)さんの師匠と碧生くんの師匠にご挨拶をする……かつてのお姫さまが臈長けた熟女になって現れたことで、往年の母に憧れていたというおじさま・おじいさま達が色めき立った。
「賑やかだと思ったら、おばさまでしたか。わざわざのお越し、ありがとうございます。」
恭匡さんは、浴衣で暢気に座っていらっしゃった。
「『石橋(しゃっきょう)』の『お披(ひら)き』、おめでとうございます。……あなた、緊張してないの?」
母が手をついてそう言うと、恭匡さんも正座し直して頭を下げた。
「ありがとうございます。してますよ~。でももう今さらジタバタしてもしょうがありませんからね。」
涼しい顔で恭匡さんはそう言った。
「碧生くんは?どちらですの?」
母の問いに、恭匡さんはクスッと笑った。
「彼は真面目ですね~。裏でジタバタしてるみたいですよ。逢って緊張をほぐしてあげてきてください。」
そう言われて、私たちは舞台裏へと行ってみた。
碧生くんは額に汗して、仕舞をさらっていた。
「ごきげんよう。碧生くん。調子はどう?」
母に声をかけられて、碧生くんは満面の笑みを浮かべた。
「おばさま!ちょっと見て下さい!ココなんですけどね……」
碧生くんは母に、立ち上がった時の姿勢について問うた。
……そばで聞いていても細かすぎて私にはわからないけれど。
由未さんが到着された。
山吹色の色留袖は、若々しく華やかで、とてもよく似合っていた。
私達は、再び恭匡さんの楽屋へ戻った。
というか、こんな素人会で個人が楽屋を一つ占領するなんて、普通は有り得ない。
「お披き」でも、数人で使うものじゃないだろうか。
どれだけこの従兄が特別扱いを受けているか、何だか恐ろしい気がした。
これで舞台がイマイチだったら恥ずかしいですよ?恭匡さん。
母は色留袖を選び、私にも華やかな振袖を着せた。
……それだけでも、母にも気合いが入っていることがよくわかった。
いつもならホームに出迎えてくれる碧生(あおい)くんの姿はない。
今頃、舞台で場当たりをしてるだろう。
わかっているのに、少し淋しく感じる。
ちょうど1年前は、碧生くんの出迎えに舌打ちしたのに……と、思い出し笑いをした。
駅からタクシーで能楽堂へ向かう。
母は緊張しているらしく、いつもより口数が少なかった。
……可愛い甥と、可愛がっている碧生くんの舞台……緊張するなと言うほうが無理かもしれない。
能楽堂に到着すると、母は当然のように楽屋口から入って行った。
恭匡(やすまさ)さんの師匠と碧生くんの師匠にご挨拶をする……かつてのお姫さまが臈長けた熟女になって現れたことで、往年の母に憧れていたというおじさま・おじいさま達が色めき立った。
「賑やかだと思ったら、おばさまでしたか。わざわざのお越し、ありがとうございます。」
恭匡さんは、浴衣で暢気に座っていらっしゃった。
「『石橋(しゃっきょう)』の『お披(ひら)き』、おめでとうございます。……あなた、緊張してないの?」
母が手をついてそう言うと、恭匡さんも正座し直して頭を下げた。
「ありがとうございます。してますよ~。でももう今さらジタバタしてもしょうがありませんからね。」
涼しい顔で恭匡さんはそう言った。
「碧生くんは?どちらですの?」
母の問いに、恭匡さんはクスッと笑った。
「彼は真面目ですね~。裏でジタバタしてるみたいですよ。逢って緊張をほぐしてあげてきてください。」
そう言われて、私たちは舞台裏へと行ってみた。
碧生くんは額に汗して、仕舞をさらっていた。
「ごきげんよう。碧生くん。調子はどう?」
母に声をかけられて、碧生くんは満面の笑みを浮かべた。
「おばさま!ちょっと見て下さい!ココなんですけどね……」
碧生くんは母に、立ち上がった時の姿勢について問うた。
……そばで聞いていても細かすぎて私にはわからないけれど。
由未さんが到着された。
山吹色の色留袖は、若々しく華やかで、とてもよく似合っていた。
私達は、再び恭匡さんの楽屋へ戻った。
というか、こんな素人会で個人が楽屋を一つ占領するなんて、普通は有り得ない。
「お披き」でも、数人で使うものじゃないだろうか。
どれだけこの従兄が特別扱いを受けているか、何だか恐ろしい気がした。
これで舞台がイマイチだったら恥ずかしいですよ?恭匡さん。