今、鐘が鳴る
思わず、碧生くんを見た。
「競輪選手だよ、彼らは。」

さっきから碧生くんの言葉で、やっと漢字に変換して理解できるような気がしていた。

……それぐらい私には別世界の話過ぎて、見当も付かない。

競輪選手?
それって、賭け事の?競輪?

「まあ、ギャンブルの駒ですわ。」
水島くんの自嘲的な言葉の意味さえわからずに、私は首をかしげた。

「ごめんなさい、私、見たことがなくて……どこで試合?レース?走ってらっしゃいますの?」

「どこって、全国にあるで、競輪場。自転車競技自体は国体競技だから各都道府県に必ずバンクもあるし。」

「……バンクって何ですか?」

銀行じゃなさそうだな、と聞いてみた。

「広義では自転車競技場。厳密には自転車競技場内の走路。トラックとも言うけど。」
そう説明されて、驚いた。

「競技場が全国にあるんですか?……知りませんでした。」
碧生くんはうなずいた。

「自転車競技も競輪もどちらかと言うとマイナーだからね。もちろん京都にもあるよ。」

コホンと咳払いをしてから、水島くんが言った。
「ここから1km離れてへんとこにもあるで。競輪場。」

え?

「てゆーか、さっき佐藤に声かけたとこ。競輪場のほんそばやったで。」

え?

「……閑静な住宅街としか思ってなかったよ。」
碧生くんにそう言われて、水島くんは肩をすくめた。

「興味ないから目に入らんかってんろ。……せっかくやし、寄ってみるか?」
水島くんにそう誘われて、碧生くんと私は顔を見合わせた。

「行ってみる?」

興味と戸惑いと怖い物見たさで、私は曖昧にうなずいた。



水島くんの自転車に誘導されてみると、確かに競輪場はすぐそばだった。

……と言うか……これ?
変色したトタン板やブロックの上に有刺鉄線。
塀の向こう側の建物も、お世辞にも綺麗とは言えない。

「昭和の少年院か刑務所かと思ったよ。」
碧生くんの言葉に思わずうなずいてしまった。

「そうなんや。これじゃ、新規の客なんかつかめへんよなあ。もうちょっと綺麗やといいんやけど。小倉や前橋はめっちゃ綺麗なドームなんやけどなあ。」
「……京都はいかがですの?」
おそるおそる聞いてみる。

「あ~。ココと似たり寄ったりやわ。」
そう言われて、悲しくなってしまった。

「今日はココではレースはないねんけどな、名古屋でおっきい大会やってるからその場外発売をしてるわ。」

駐車場に車を駐めて、入口へ向かって歩きだした。

「ふーん。おっきい大会、ね。水島は出られないんだ。」
ニヤッと笑って、碧生くんがからかった。

「これからや!今年は無理かもしれんけど、来年はバンバン出るから、応援に来いよ!」

むきになってそう言う水島くんがかわいかった。
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