今、鐘が鳴る
「……先ほど、泉さんは賞金ランキング上位とおっしゃってましたけど……それでも出られないんですか?」
ふと気になってそう尋ねてみた。

「あ~……」
水島くんが言葉に詰まってしまった。

碧生くんと顔を見合わせて、首をかしげる。
少し置いて、水島くんは言いにくそうに説明してくれた。

「師匠、普段はクールっちゅうか、あんまり執着せえへん投げやりな人やねんけど、競走中はかなり激しくて、ラフプレイのペナルティで今月は斡旋停止ねんわ。」

「反則が多いってこと?」
驚く碧生くんに、水島くんは苦笑した。

「競輪では事故点言うねんけどな。ま~あ?勝つためにはしょうがないと思うんやけど……ちょっとやり過ぎというか……」

カーンカーンカーン……と鐘が鳴った。
あたりをキョロキョロ見回すと、場内のモニターから流れている音らしい。

見上げると、画面の中では色とりどりの格好の選手がほぼ一列で走っていた。
コーナーにかかったところで、前から4番めを走っていた紫色の服の選手が少し外側に出て前の選手達を抜きにかかった。
紫色の人に白い人と水色の人もついていく。
前から2番めの黒い服の選手のところまできたところで、黒い人が外側に勢いよく飛び出した。
紫色の人は急に失速してしまった。
そこからはごちゃごちゃになった。
白い人も水色の人も内側に入って行き、一番前を走っていた緑色の人がずるずると失速し、黒・白・水色、それから黒い人のすぐ後ろを走っていた赤い人の4人が立て続けにゴールした。

「……ゴールまでの半周で、ものすごく順位が動くんだな。」
隣でモニターを見上げていた碧生くんがそう言った。

「ああ。残り1周半で鐘が鳴ってからが勝負や。」

「ずっと一番前を走っていた緑の人は、ペース配分を間違えたのかしら。最後にあんなに下がっていくなんて。」
私がそう尋ねると、水島くんは首を横に振った。

「いや。前は風の抵抗があるから、しんどいねん。でも、若い先行屋(せんこうや)やから、ラインの先輩のためにああせなしゃあないねん。」

せんこうや?
ライン?
またわからない言葉が出てきて、碧生くんを見た。

碧生くんは、ちょっとうなずいて、水島くんに確認してくれた。
「さっきのレースで3人ずつ3つに分かれてるように見えたけど、グループをラインって言うの?で、そのグループの中の前を走る役の人が先行屋?」

……碧生くんってやっぱり頭いいんだなあ……すごくわかりやすい。

「そうそう。だいたい地区別でラインを組んで走るんや。ほら、さっき師匠が俺に、機関車しろって言うてたやん?あれ、俺に師匠の前で走って引っ張れっていう意味。」

ええ!?
< 22 / 150 >

この作品をシェア

pagetop