今、鐘が鳴る
恋愛感情には至ってないのに、気を持たせるようなことは言うべきではないと思って。
「さっき、水島の師匠が来た時……」
不意に心臓がドキッとした。
「ごめんなさい!泉さんの目がちょっと怖くて。服、伸びてしまってない?」
慌ててそう謝ったら、碧生くんは目を見開いてから、苦笑した。
「……あやまられたくないな。頼ってもらえてうれしかったのに。」
あ、そういうものなのね。
私は言葉を失った。
「百合子が俺に『お願いビーム』と『助けてビーム』を寄越すから浮かれたのもあるけど……泉さんちょっと危険な気がして、牽制した。ごめんね、彼氏面(づら)して。」
……そう言えばそうだったっけ。
でも、あの時はそう言ってもらえて、守ってもらえた気がした。
決して嫌な気はしなかった。
むしろホッとしたんだけど、それをそのまま言うと誤解されるだろうか。
返答に困ってる私に、碧生くんはほほえみかけた。
「いいよ。わかってるから。急(せ)かす気も強制する気もないから。とか言いつつ、縁結びのお堂に連れてきちゃったけど。」
愛染明王って、縁結びだったっけ?
「大丈夫。神仏はちゃんとお互いにとって一番いい相手とのご縁を結んでくださるわ。」
車に戻ってから、碧生くんがぽつりと言った。
「でも、百合子。泉さんはダメだよ。」
ちょっと怖い声だった。
「……どういう意味?」
「さあ。わかんないけど、俺の危機察知能力がダメって言ってる。」
私はちょっと笑ってしまった。
「何それ。動物的勘?」
「いや、男の勘。」
碧生くんは、まったく笑ってなかった。
翌週、碧生くんは東京に帰ってった。
「次はGWに来るよ。」
ということは、また私は連れ回されるのだろうか。
……今度はどこに行くんだろう。
そんなに嫌じゃないことを自覚しつつも、私以上に待ち遠しそうな母の様子が苦々しかった。
「ほんの数日のことですから、次は我が家に泊まっていただきましょう。」
どうやら母は、恭匡さんから碧生くんの身元を聞き出して、ますます気に入ったらしい。
同じ帰国子女でも、これが水島くんならダメなんだろうな。
まして泉さんなんて……。
……って、どうして泉さんが出てくるんだろう。
そう言えば、京都に来るって言ってらしたっけ。
あれから気になって、競輪のHPを見てみた。
やっぱり難解だけど、専門用語のページを読んで、何となく理解できてきた気がする。
あの時、泉さんが言ってた「とっかん」は「特別観覧席」。
つまり有料席のことらしい。
京都の競輪場は京都市内じゃないけど、隣接する市に存在した。
阪急とJR、両方の最寄り駅から無料バスも出ているようだ。
……意外と簡単に行けるんだ。
タイミングいいのか悪いのか、4月に入ってしばらくは講義もない。
「さっき、水島の師匠が来た時……」
不意に心臓がドキッとした。
「ごめんなさい!泉さんの目がちょっと怖くて。服、伸びてしまってない?」
慌ててそう謝ったら、碧生くんは目を見開いてから、苦笑した。
「……あやまられたくないな。頼ってもらえてうれしかったのに。」
あ、そういうものなのね。
私は言葉を失った。
「百合子が俺に『お願いビーム』と『助けてビーム』を寄越すから浮かれたのもあるけど……泉さんちょっと危険な気がして、牽制した。ごめんね、彼氏面(づら)して。」
……そう言えばそうだったっけ。
でも、あの時はそう言ってもらえて、守ってもらえた気がした。
決して嫌な気はしなかった。
むしろホッとしたんだけど、それをそのまま言うと誤解されるだろうか。
返答に困ってる私に、碧生くんはほほえみかけた。
「いいよ。わかってるから。急(せ)かす気も強制する気もないから。とか言いつつ、縁結びのお堂に連れてきちゃったけど。」
愛染明王って、縁結びだったっけ?
「大丈夫。神仏はちゃんとお互いにとって一番いい相手とのご縁を結んでくださるわ。」
車に戻ってから、碧生くんがぽつりと言った。
「でも、百合子。泉さんはダメだよ。」
ちょっと怖い声だった。
「……どういう意味?」
「さあ。わかんないけど、俺の危機察知能力がダメって言ってる。」
私はちょっと笑ってしまった。
「何それ。動物的勘?」
「いや、男の勘。」
碧生くんは、まったく笑ってなかった。
翌週、碧生くんは東京に帰ってった。
「次はGWに来るよ。」
ということは、また私は連れ回されるのだろうか。
……今度はどこに行くんだろう。
そんなに嫌じゃないことを自覚しつつも、私以上に待ち遠しそうな母の様子が苦々しかった。
「ほんの数日のことですから、次は我が家に泊まっていただきましょう。」
どうやら母は、恭匡さんから碧生くんの身元を聞き出して、ますます気に入ったらしい。
同じ帰国子女でも、これが水島くんならダメなんだろうな。
まして泉さんなんて……。
……って、どうして泉さんが出てくるんだろう。
そう言えば、京都に来るって言ってらしたっけ。
あれから気になって、競輪のHPを見てみた。
やっぱり難解だけど、専門用語のページを読んで、何となく理解できてきた気がする。
あの時、泉さんが言ってた「とっかん」は「特別観覧席」。
つまり有料席のことらしい。
京都の競輪場は京都市内じゃないけど、隣接する市に存在した。
阪急とJR、両方の最寄り駅から無料バスも出ているようだ。
……意外と簡単に行けるんだ。
タイミングいいのか悪いのか、4月に入ってしばらくは講義もない。