今、鐘が鳴る
その日は、大学に行って事務手続を済ませても午前中のうちに暇になってしまった。

ああ……導かれてる……。

これが自分の意志とは認めたくないけれど、怖い物見たさと自分を納得させて、私は競輪場へ向かった。
京都駅からJRで3駅。
無料バスに乗車する。

若い女性は珍しいらしく、おじさんやおじいさん達にジロジロ見られ、話しかけられた。
……みなさん親切というか馴れ馴れしいというか、とてもフレンドリーで驚いた。

「姉ちゃん、誰のファンなん?」
誰と聞かれても、知っている競輪選手は水島くんと泉さんだけ。
今回は水島くんは出てないはずだから……

「泉さん?」
恐る恐るそう言うと、周囲はどよめいた。

「しょーり!?」
「泉勝利か!」

勝利(まさとし)というお名前を、おじさん達は「しょうり」と呼ぶらしい。
彼らが口々に言ってる話から類推すると、どうやら競輪選手の中にもアイドル的な若いイケメンの選手もいるらしい。
なのに私が名前を出した泉さんは、不細工ではないものの鋭角的過ぎるきつい顔の30歳。

「姉ちゃん、玄人か?」
くろうと?
プロってことかしら?

意味がわからず、私は曖昧に首をかしげるしかなかった。



バスは5分程で競輪場に到着した。
桜が満開!
素敵!

親切なおじいさんに教えていただいて、有料席へ案内していただいた。
3階まで階段で上がって入った有料席は、不思議な空間だった。

……人は数えるほどしかいない。
前のほうに座ってみたけれど、バンクが遠い。
ゴール前の最後のコーナー(第4コーナー)に面してるため、勝負どころは近いけれど……。

レースの時にスタート台とゴール前に人が集まるけれど、それ以外のところは人もまばら。
有料席に入る必要なかったかしら。

入口でもらった出走表によると、泉さんは最終の11レースを走るようだ。
3日間のレースはトーナメント制らしいけれど、最終レースは初日特選とあり、9人中9着でも準決勝に進めるらしい。
シード選手ってことね。
じゃあ、今日は気楽なのかしら……と、私はぼんやり考えていた。

10レースが終わると、泉さん達11レースに出走するメンバーが出てくる。
「顔見せ」「脚見せ」「地乗り」「並び」などと呼ばれる、スタート紹介だ。
泉さんは紫色の9番車。
白の1番車の和歌山の子の後ろに並ぶらしい……ん?

オレンジの7番車の人が泉さんの隣に並走している。
……どういうこと?
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