今、鐘が鳴る
「落車しよった!」
泉さんの車券を買っていたおじさん達が、紙屑となってしまった車券を握りしめて、泉さんを口汚く罵る。
私は、耳を塞いだ。
泉さんの怪我が心配で、一生懸命見ようとするのだけど、涙で前が全然見えない。
「中沢さん……泉さんは……」
膝がガクガク震えて立ってるのもままならず泣き崩れる私と対照的に、中沢さんは目をキラキラさせて金網に張り付いていた。
「やり過ぎや!さすが!」
うれしそうにそう言って、中沢さんは狂ったように笑い出した。
怒号の中、泉さんと接触して落車した3番車の選手は壊れた自転車に再乗して、ゴールに辿りついた。
ゴール前のファンに一礼する3番車の選手に対して、拍手する人もいれば、「乞食!」と罵る人もいた。
泉さんは、落車した第4コーナーでふてくされたように三角座りをして担架(ストレッチャー)に座っていた。
骨折とかはしてなさそうに見えたけれど、左足が真っ赤。
「擦過傷(さっかしょう)だけみたいだな……」
中沢さんはそうつぶやくと、声を張り上げた。
「しょーり!帰るなよーっ!明日は勝てよーっ!」
泉さんは担架で運ばれながらこっちを見た気がした。
周囲のおじさん達が
「失格やろ。」
「アホな。泉は失格にはせんやろ。」
「2人とも失格じゃ!」
などなど好き勝手なことを言っている。
しばらくして、アナウンスが流れた。
「お待たせいたしました。審議の結果をお知らせいたします。3番選手と9番選手の落車について審議いたしましたが、落車はそれぞれの違反性のない動きの中で発生したものであり、失格とはなりません。決定。1着1番……」
ふうっと、中沢さんが息を吐いた。
「しょーり、失格にならなかったから、明日も出られるよ。しかも、しょーりがやり過ぎたおかけで、前残りの筋違い。万車券ゲット。」
え?
「泉さんのファンなのに、泉さん以外の人の車券を買ってたんですか?」
驚いて涙も引っ込んでしまった。
中沢さんは、にやりと笑った。
「当然だよ。車券と応援は、別。車券ゲットして、泉勝利のエキサイティングなレースも見られて、今日はこの上なく満足だよ。お嬢様のおかげかな。」
……私は関係ないでしょう。
「ギャンブルってシビアなものですね。」
少し不満気にそうこぼすと、中沢さんは小さく笑った。
「もちろん、応援車券もありだと思うよ。でもこのクラスだとしょーりは売れるから配当に旨みがなくてね。……お嬢様、明日もおいでよ。」
不意にそう誘われて、私は何も考えずにうなずいていた。
中沢さんは、誘ったくせに眉をひそめた。
「……大丈夫?僕みたいに泉勝利のレースに惚れ込むのはウェルカムだけど……男としての泉勝利はやめといたほうがいいよ?」
ドキン!と鼓動が跳ね上がった。
「何をおっしゃってるんですか?そんな……」
そんなこと、あるわけない。
あんな怖い人……無理……。
本気でそう思うのだけど、それ以上言葉が続かない。
泉さんの車券を買っていたおじさん達が、紙屑となってしまった車券を握りしめて、泉さんを口汚く罵る。
私は、耳を塞いだ。
泉さんの怪我が心配で、一生懸命見ようとするのだけど、涙で前が全然見えない。
「中沢さん……泉さんは……」
膝がガクガク震えて立ってるのもままならず泣き崩れる私と対照的に、中沢さんは目をキラキラさせて金網に張り付いていた。
「やり過ぎや!さすが!」
うれしそうにそう言って、中沢さんは狂ったように笑い出した。
怒号の中、泉さんと接触して落車した3番車の選手は壊れた自転車に再乗して、ゴールに辿りついた。
ゴール前のファンに一礼する3番車の選手に対して、拍手する人もいれば、「乞食!」と罵る人もいた。
泉さんは、落車した第4コーナーでふてくされたように三角座りをして担架(ストレッチャー)に座っていた。
骨折とかはしてなさそうに見えたけれど、左足が真っ赤。
「擦過傷(さっかしょう)だけみたいだな……」
中沢さんはそうつぶやくと、声を張り上げた。
「しょーり!帰るなよーっ!明日は勝てよーっ!」
泉さんは担架で運ばれながらこっちを見た気がした。
周囲のおじさん達が
「失格やろ。」
「アホな。泉は失格にはせんやろ。」
「2人とも失格じゃ!」
などなど好き勝手なことを言っている。
しばらくして、アナウンスが流れた。
「お待たせいたしました。審議の結果をお知らせいたします。3番選手と9番選手の落車について審議いたしましたが、落車はそれぞれの違反性のない動きの中で発生したものであり、失格とはなりません。決定。1着1番……」
ふうっと、中沢さんが息を吐いた。
「しょーり、失格にならなかったから、明日も出られるよ。しかも、しょーりがやり過ぎたおかけで、前残りの筋違い。万車券ゲット。」
え?
「泉さんのファンなのに、泉さん以外の人の車券を買ってたんですか?」
驚いて涙も引っ込んでしまった。
中沢さんは、にやりと笑った。
「当然だよ。車券と応援は、別。車券ゲットして、泉勝利のエキサイティングなレースも見られて、今日はこの上なく満足だよ。お嬢様のおかげかな。」
……私は関係ないでしょう。
「ギャンブルってシビアなものですね。」
少し不満気にそうこぼすと、中沢さんは小さく笑った。
「もちろん、応援車券もありだと思うよ。でもこのクラスだとしょーりは売れるから配当に旨みがなくてね。……お嬢様、明日もおいでよ。」
不意にそう誘われて、私は何も考えずにうなずいていた。
中沢さんは、誘ったくせに眉をひそめた。
「……大丈夫?僕みたいに泉勝利のレースに惚れ込むのはウェルカムだけど……男としての泉勝利はやめといたほうがいいよ?」
ドキン!と鼓動が跳ね上がった。
「何をおっしゃってるんですか?そんな……」
そんなこと、あるわけない。
あんな怖い人……無理……。
本気でそう思うのだけど、それ以上言葉が続かない。