今、鐘が鳴る
「すごいことおっしゃいますのね。」
直情的で、手段を選ばない非道な男。

もしかして、泉さんの恋愛は、この3日間見た競走のままなのかもしれない。

ううん、恋愛なんて美しいものじゃない、か。
情事。
火遊び。
捨てられることが最初からわかっている、うたかたの恋。

……かまわないわ。

どんなに心から愛しても恋い焦がれても成就しない恋の経験が、私に刹那的な関係をあっさりと受け入れさせた。

例え地獄が待っていようとも、泉さんの火のような激しさを受け止めてみたい……全身で。

泉さんは表情を変えずに、無言で運転席と助手席の間にあったアームレストを上げた。

……この車、ベンチシートなのね。
でもココで今、押し倒されるのは、嫌だな。
せめてどこかホテルで……いやいやいや。
この周辺って、ラブホテルが多かった気がするわ。

鈍い私もやっと気づいた。
何てことはない。
二重三重に仕掛けられた罠に私は気づかなかったのだ。
最初から、泉さんはそのつもりだったのだ。

「来いや。」
不敵な笑顔で、泉さんがそう言った。

性格悪いわ、本当に。
でも、私は抗えなかった。
むしろ鋭い目に強く惹かれた。

引き寄せられるように、フラットなベンチシートをひと膝、にじり寄った。

「くやしい。」
ついそう言ってしまったけれど、泉さんは聞き流して、広いたくましい胸に私を抱き締めた。

「くやしい。くやしい。くやしい。」
身をよじって何度もそうつぶやく私の唇をふさぐべく、泉さんは強引に私の顔を上げさせた。

泉さんの強い光を放つ目に至近距離で見つめられ、私の涙腺が決壊した。
「くやしい……好き……」
「わかってる。」
泉さんは、吐息がくすぐったいぐらい唇を寄せてそう言ってから、私の唇を奪った。

……くやしい。
唇だけじゃなく、強引に口中を蹂躙される。
激しすぎて、苦しくて……2人の唾液と私の涙で顔がぐちゃぐちゃ。

それでも泉さんは解放してくれなかった。

ベンチシートに押し倒されるのかと思っていたら、逆に、私は子供のように泉さんにほぼ横抱きにされていた。

しっかりと身体を抱かれての長いキスに、私の心は完全に犯された。

気がつけば、泉さんの腕の中。
朦朧として全身の力の抜けた私に驚いて、泉さんはディープキスを中断したようだ。

春先の夜なのに、2人とも汗ばんでいた。
「もっと?」
泉さんは、薄笑いを浮かべて私にそう聞いた。

もう、やだ……。
言いなりになるのは、すごくくやしいのに……。
なのに、私の感情は理性を裏切る。

両手を泉さんの首にからめて、無言で続きをねだった。
自分から唇を押し付けて、泉さんを煽った。
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