今、鐘が鳴る
「……何か、今日は変な日だね。お互いの後ろぐらい過去を打ち明ける日?」
碧生くんはそう言って、ふっと笑った。
「秘密の共有って、いいね。」
苦笑で答える私に、碧生くんはだめ押しの一撃。
「過去の罪だけじゃないよ、たとえ今後、百合子が誰かを傷つけても、どんな酷いことをしても、みんなが百合子の敵になっても、俺だけは百合子の味方だから。」
……うれしいより、ちょっと引きつった。
「私、どれだけ悪人って思われてるのか、心配になってきた。そんなに、ひどい人?」
碧生くんは快活に笑った。
「違う違う。そうじゃないけど、生きてりゃいろいろ仕方ないことも起こるだろ。」
そして、ほほえみを絶やさずに言った。
「だから百合子は自分の想いを貫けばいい。心身共に傷ついても、社会的につらい立場になっても、俺だけは変わらないから。俺自身が踏みにじられても、ね。」
……そんなこと、そんな優しい顔で言わないでよ。
すごく複雑な気分。
碧生くん、知ってるんだ、って確信した。
……泉さんと私のこと。
泣きたい。
私、碧生くんには知られたくなかったみたい。
はじめて私は、泉さんとのことを後悔した。
翌日の朝食後、義父の運転で旅行へと出発した。
「碧生(あおい)くんは城崎ははじめてですわよね?」
母の質問に碧生くんは元気に答えた。
「はい!おばさまは何度も行かれてるんですよね?温泉以外に何がお勧めですか?」
義父と母は顔を見合わせた。
「……わしが蟹、好きやから、冬場には来てたけど、他の季節は……どやったかなあ。」
「夏に海水浴と水族館に行きましたわ。百合子が鯵を釣り過ぎて……」
3人の目が一斉に私に集まった。
そういえば、そういうこともあった気がする。
釣った鯵をフライにしてくれて、新鮮でとても美味しいのだけれど、あまりにも簡単に釣れるのがおもしろくて、とても食べきれない量の鯵を釣ってしまった。
「かわいいな。ちっさい百合子が黙々と鯵を釣ってるところを想像すると。」
碧生くんは、両親の前でも平気でそんなことを言う。
その都度私は、恥ずかしいけれど、くすぐったくて、ほんの少しだけうれしく感じるようになっていた。
……数ヶ月前は、舌打ちしたくなったのに……我ながら変わったわ。
お昼に出石に寄った。
碧生くんは、いつも私を引っ張り回す史跡巡りや資料館入り浸りを封印し、両親に対して、少しマニアックながらも楽しく詳しい観光案内に徹した。
「碧生くんと旅行に来ますと、こんなにイロイロと興味が広がりますのねえ。百合子が嫌がらない理由がやっとわかりましたわ。」
昼食の出石そばをいただきながら、母がしみじみとそう言った。
碧生くんはそう言って、ふっと笑った。
「秘密の共有って、いいね。」
苦笑で答える私に、碧生くんはだめ押しの一撃。
「過去の罪だけじゃないよ、たとえ今後、百合子が誰かを傷つけても、どんな酷いことをしても、みんなが百合子の敵になっても、俺だけは百合子の味方だから。」
……うれしいより、ちょっと引きつった。
「私、どれだけ悪人って思われてるのか、心配になってきた。そんなに、ひどい人?」
碧生くんは快活に笑った。
「違う違う。そうじゃないけど、生きてりゃいろいろ仕方ないことも起こるだろ。」
そして、ほほえみを絶やさずに言った。
「だから百合子は自分の想いを貫けばいい。心身共に傷ついても、社会的につらい立場になっても、俺だけは変わらないから。俺自身が踏みにじられても、ね。」
……そんなこと、そんな優しい顔で言わないでよ。
すごく複雑な気分。
碧生くん、知ってるんだ、って確信した。
……泉さんと私のこと。
泣きたい。
私、碧生くんには知られたくなかったみたい。
はじめて私は、泉さんとのことを後悔した。
翌日の朝食後、義父の運転で旅行へと出発した。
「碧生(あおい)くんは城崎ははじめてですわよね?」
母の質問に碧生くんは元気に答えた。
「はい!おばさまは何度も行かれてるんですよね?温泉以外に何がお勧めですか?」
義父と母は顔を見合わせた。
「……わしが蟹、好きやから、冬場には来てたけど、他の季節は……どやったかなあ。」
「夏に海水浴と水族館に行きましたわ。百合子が鯵を釣り過ぎて……」
3人の目が一斉に私に集まった。
そういえば、そういうこともあった気がする。
釣った鯵をフライにしてくれて、新鮮でとても美味しいのだけれど、あまりにも簡単に釣れるのがおもしろくて、とても食べきれない量の鯵を釣ってしまった。
「かわいいな。ちっさい百合子が黙々と鯵を釣ってるところを想像すると。」
碧生くんは、両親の前でも平気でそんなことを言う。
その都度私は、恥ずかしいけれど、くすぐったくて、ほんの少しだけうれしく感じるようになっていた。
……数ヶ月前は、舌打ちしたくなったのに……我ながら変わったわ。
お昼に出石に寄った。
碧生くんは、いつも私を引っ張り回す史跡巡りや資料館入り浸りを封印し、両親に対して、少しマニアックながらも楽しく詳しい観光案内に徹した。
「碧生くんと旅行に来ますと、こんなにイロイロと興味が広がりますのねえ。百合子が嫌がらない理由がやっとわかりましたわ。」
昼食の出石そばをいただきながら、母がしみじみとそう言った。