今、鐘が鳴る
そのまま私たちは、夕食に行った。
タクシーの運転手さんお勧めのお寿司屋さん。
カウンターに常に水を流している溝が設けてあり、お寿司をつまんだ手を洗いながらいただいた。
奇をてらった趣向のみならず、お寿司自体もとてもおいしかった。
特に炙った穴子が絶品。
表面がカリッと香ばしく、中はふわとろ。

「こんなに美味しい穴子寿司、はじめていただきました。」
「私も!ふふっ。恭兄さまに自慢しちゃおう♪」

結婚してからも相変わらず「兄さま」呼びの由未さんがほほえましかった。
事情を何も聞かず、ただ私をサポートして寄り添ってくれた由未さん。

「少し、飲まない?」
ホテルへの道を歩きながら、由未さんをそう誘ってみた。


由未さんが予約してくれたホテルにはスカイバーがあった。
「上行く?それとも、シャワー浴びて、身軽になって、ルームサービスでお酒、頼む?」
私にそう尋ねてから、由未さんはふふっと笑った。
「パジャマパーティーのほうが楽ちんやね。部屋で飲まへん?」
もちろん異論はなかった。

私がシャワールームを使っている間に、由未さんは富山の地酒と赤・白ワイン、おつまみ、チーズを注文してくれていた。
「他に欲しいもんあったら電話で追加しといて~。」
そう言い置いて由未さんはシャワールームに入った。

2人でこれだけ飲めきれるとは思えないのだけれど……。

ワンピースタイプのパジャマで2人で盃を酌み交わす。
地酒はよく冷えていて美味しかった。
「……冷やし過ぎちゃう?せっかくの山廃やのに酸味とか雑味が感じられへん。」
由未さんはそう言って、お酒の瓶をワインクーラーから引き上げた。

「詳しいのね。お好きなの?」
私はそう聞いてから、ふっと笑ってしまった。
「そういえば、いつも3人で飲んでるような……」
碧生(あおい)くんが天花寺(てんげいじ)家からスカイプをしてくる時、常に恭匡(やすまさ)さんは酔ってらっしゃる気がする。

「や、私はあんまり。恭(きょう)兄さま、めっちゃ日本酒が好きみたいで……淡麗なのはつまんないんやって。」
瓶を手にとって見てみると、裏側のラベルの「辛口」「淡麗」に○が記してあった。

「ではコレは恭匡さんのお口には合いませんね。でも、飲みやすくて、美味しいですわ。」

そう言って水のように喉に流し込んだ。
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