君を選んだから
日替わりの特売品を一通りカゴに入れ終わると、それを持ったまま化粧品カウンターに来るお客様も現れ始めた。

開店セール特有の買い物したい欲を刺激するアドレナリンが出ているせいなのか、ちょっと勧めただけでも、面白いように売れて行く。


BAを着けない分、我が社がCMを多く流している効果も表れているのだろう。

面白いのは、買ってみたいけど、自分で色やファンデーションのタイプを選ぶ自信がなかったから、あなたが選んでくれるなら買うという年配層が意外に多かったことだ。


平日の昼間の客層を考えれば納得の部分もあるけど、この層はスーパーでも平気で大金を落としてくれる。

気に入ってもらえれば、放っておいても、浮気することなくリピート買いだってしてくれる。


ギャルメイクのキャピキャピ層と話すより気楽だし、エターナルのBAと張るよりこっちで勝負しよう。

そう開き直って楽しくお客様と話しているうち、時間を感じないほど夢中になっていて、気付けば一日目は勤務終了時間になっていた。


帰る前に向井チーフに挨拶をしようと思い、探していたら、バックヤードで出力された売り上げデータと睨めっこしている背中を見つけた。

真剣な顔つきが妙にセクシーで、何だか匡史じゃないみたい。

声をかけるのをためらい、しばらくその光景に見入っていたら、視線に気が付いたのか、急に匡史が振り返った。

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