エリートな彼と極上オフィス
「榎並部長がですか? 承知しました」
『お待ちしております』
いったい彼女は、榎並部長のなんなのだろう、と不思議に思いながら内線を切った。
最初に会った時、同行していた女性だ。
秘書ではなく、普通の人事部員のはずなんだけど、こんなふうに彼の代わりに連絡をしてきたりする。
会社は奥が深い。
「やあ、呼び出して申し訳ない」
「とんでもないです、何かおわかりですか」
会議室のテーブル越しに、数枚のコピー用紙が滑らされてきた。
両面コピーされた、発言録だ。
「少し前の執行会議の議事録だ。会議には執行役員の他に部長級までは参加できるが、議事録は社長と社長秘書にしか展開されない」
「かなりの機密ですね」
「渡すことも難しいので、この場で目を通してほしい」
なるほど、承知。
みんなのところに持ち帰れないのなら、内容を正確に記憶しておかねばと、私は椅子に腰を下ろして、冒頭からじっくり目を通しはじめた。
ドアの閉まる音がして、はっとした。
入ってきたのは榎並部長で、彼が出ていったことにも気づいていなかった私は、きょとんとしてしまう。
「夢中で読んでいたようだったのでね、どうかな?」
時計を見たら、30分ほど経過していた。
かなり込み入った、2時間分ほどの議事がびっしり書き込まれていたので、気づくと脳が疲弊しているのを感じる。
「これは…その、商品企画の分野にまで改革を入れたいという、そういう話なんでしょうか」
「そう読み取れたのなら、そうなんだろうと思う」
榎並さんは、私に先入観を与えまいとしてか、慎重に答えた。
「でもIMCの立ち上げ時に、そこまではしないと確約されていたはずで」
「だから議論が沸騰したんだよ、この会社は開発部門の力が強い。だからここまで成長したのだが、社長はそれに限界が来ていると言ったも同然だ」
私が眉間にしわを寄せたのに、気づいたに違いない。
ふっと微笑むと、隣の椅子を引いて、優雅に座った。