エリートな彼と極上オフィス
先輩は、こういう人なんだろう。

こんなふうに泣く人なんだろう。


何かにめいっぱいしがみついて、それが女の子ならついでに本能に従って、ひたすらぶつけて、自分を解放するんだろう。

涙は見せずに。



正気に戻った時、彼は激しく後悔する、絶対に。

だからもしかしたら、殴ってでも止めるべきなのかもしれない。


でもそれはそれで、もったいなくてできなかった。

勝手な後輩でごめんね、先輩。




先輩はどうやら、きゅーっとくっつきながらするのが好きらしい。

苦しい、とたびたび思うものの、そこを気にしている余裕は、正直なかった。


たぶん私が未経験なせいで、なかなかうまくいかないのが不思議らしく、先輩は何度か首をひねる。

思いやり深いとは言いがたい扱いに、手の甲を噛んで呻き声を隠した。

性急に動く間も、先輩はしきりにその手を外させたがり、ひっぺがしてはキス、ひたすらキス、だった。


見下ろす目が甘えるみたいにとろけて、怯えさせるような危険な匂いもあって、肩とか腕の筋肉が綺麗で、荒い息と汗が色っぽくて。

こんな先輩を、数多くの女の人たちが見てきたと思うと、うらやましすぎて憤死しそうだ。


ある長いキスを終えた時、ふと先輩は私の顔をじっと見て。

だしぬけに、ふわっと笑って言った。





「湯田じゃん」





その声が、あまりに行為とかけ離れて、晴れた日みたいにからっと嬉しげだったので、涙が出そうになった。

湯田ですよ、最初から。


ねえ先輩、思い出さないでね、このことは。

綺麗さっぱり、なかったことに。


なんてうまくはいかないだろうけど、とりあえず私はね、幸せですよ、今。

胸がちくちくしますが、幸せです。


だから先輩も、早く楽になって。

つらいことから離れて、笑えるようになって。


この想いが伝わりますように。



湿った肌に包まれて、そんなことを思った。





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