エリートな彼と極上オフィス
「痛!」
「何回呼ばせんだ!」
「え?」
振り向くとコウ先輩が、資料を手に見下ろしていた。
「打ち合わせだ、行くぞ」
あれっ、でも予定まではまだ時間が。
首をかしげながら急いで準備を整えていると、先輩が言い添える。
「向こうの部長の時間が急に空いたから、前倒して来いって連絡があったんだ」
「なるほどですね」
ジャケットを手に、廊下を走った。
先輩に追いつくと、ひそめた声で耳打ちされる。
「人事部長は、若い子好きで有名だ、お前、何かされてもキレんなよ」
「セクハラの難しさは、何をされたかでなく、誰にされたかが問題だってところで」
「しっ」
だしぬけに紙資料で、パーンと顔を叩かれた。
さすがの私も衝撃で固まる。
「榎並(えなみ)部長、ご足労いただいて恐縮です」
「いやいや、かのIMC室からの呼び出しなんて光栄だからね、どこへでも行きますよ」
自信たっぷりの甘い低音ボイスは、電話で聞いたことがある。
これが件の人事部長か、と観察していたら、向こうがにこりと微笑んだ。
部長クラスに秘書はいないはずなのに、綺麗な女性を連れている。