エリートな彼と極上オフィス
がく、と脱力したのがわかる。

もっと建設的な提案をしてもらえると思っていたんだろう。

先輩は気を取り直すように顔を上げて、少しの間、何か言おうとしていたようだったけれど、やがてあきらめた。



「…好きにしろよ」



やった。

もう先輩が愛しすぎてすっかり昂っていた私は、カップをベンチに置いて、首にぎゅっと抱きついた。

コート越しでも、案外体温て、感じるものだ。

そんなことを考えていたら、ぽんぽん、と私の手を、先輩が叩いてくれた。



「聞きたくないかもしれないけど、やっぱり俺は謝りたいよ」

「謝っていただく必要なんてないと思ってますが、そんなに言うなら聞きますよ」



かえって言いづらくなったのか、先輩が黙る。



「ちなみに欠片でも、覚えてるですか?」

「…覚えてない」

「そりゃよかったです」



なんで、と憮然とした声が訊く。



「内容を覚えてたらたぶん、自己嫌悪でここにも来られてないと思いますよ」



先輩が前傾姿勢になったため、ずるずると私も体重を預ける結果になった。

ごめん、と小声で繰り返すのが聞こえる。



「怖い思いしたろ、ごめんな…」

「気にしないでくださいってば」

「酒入った状態でやった後、死ねって言われたこともあるから、どんなだったか想像ついてる。お前にはすごい負担かけたと思う、ごめん、本当に」

「いや、そこまでではなかったですけど」



何やらかしたんですか、それ。

私がフォローめいたことを言ったせいか、先輩がちょっと浮上した。



「俺、酷いことしなかったか?」

「何を酷いと言うかによりますが、まあ全体としてみれば私は、ラッキーと思ってましたよ、相手、先輩ですもん」


< 122 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop