エリートな彼と極上オフィス
「いつまで続くんですかね、この人事劇」
「年度いっぱいじゃないかと思う。だがCMO自身の異動がないことで、IMCは存続させたいというのが社長の意思と取れる、違うかな」
「湯田に触らないでいただけますか」
榎並部長が何気なく私の肩に置いた手を、先輩が払いのけた。
部長はおとなしく引き下がり、くすりと笑う。
「独占欲と正義感の狭間、といったところか」
「余計なお世話ですよ」
「社長の話だよ」
悔しそうに黙る先輩を無視して、部長は私ににっこりと微笑んだ。
へこたれない人だ。
「社内セミナーも、引きも切らぬ参加希望者の列と聞く。きみたちの尽力は、人事の逆風の噂を実に巧みに味方につけたと思うがね」
「岩瀬さんの号令の元、迅速に動いた結果です。何かひとつでも間違っていたら、取り返しのつかないことになっていましたよ」
「だが、そうはならなかった」
「社長がここまで見通していたと?」
「さあ」
肩をすくめてみせる。
「だが、一刻も早くこう言いたいんじゃないかな、特に安永専務と岩瀬CMOに」
ほら、うまくいったろう、と。
「男の人は、いくつになっても子供ですねえ」
「俺の知らない間に、あのスケベ部長とずいぶん仲よくなったもんだな」
おっと。
横を見ると、冷ややかなオーラが押し寄せてくる。
「諜報活動のためですよ」
「嘘つけ、あいつのこと、けっこう気に入ってるだろ」
まあね。
あの懲りないところが、ちょっといい。
人事部長としても敏腕だと聞くし、懇意にしておいてなんら損はないはずだ。