エリートな彼と極上オフィス
「なるほどね、スペシャリスト採用」
「今の人事方針がゼネラリスト育成であることは承知しています、大半はそれでもいい、でもIMCには、スペシャリストが必要です」
「そもそも日本企業のゼネラリスト志向も、もう古い、ときみは言いたいのだろうね」
小さな会議室に入るとすぐ、話は核心に入った。
柔らかい椅子の背もたれに必要以上に体重をかけてふんぞり返る部長に、先輩が慎重に言葉を選んでいるのがわかる。
「私個人の考えを申し上げれば、そうです。が、IMC室はまだ、そこまでの転換を求めてはいません」
「スペシャリストは、中途でもいいのかね」
「できましたら両方。中途の即戦力と、自社へのロイヤリティの高い新人は、どちらも欲しいです」
「検討しよう」
あっさり承諾をもらい、先輩は拍子抜けしたように、ありがとうございます、と言った。
「失礼ですが、スペシャリスト採用には相応の基準が必要となります、そのご準備もしていただけるという認識で、よろしいですか」
「あなたは、何年目かね」
榎並部長は突然、私に向かって話しかけてきた。
はっ、と思わず声が出る。
「2年目になりました、湯田と申します」
「お若いね」
「では今日のお話を、後ほど改めてメールいたします。実務的な担当者をひとりつけていただけますか」
私の返事を遮るように、先輩が書類を揃えながら言った。
はい解散、というそのオーラを無視して、部長は私に微笑みかける。
「そちらの実務の窓口は、あなたでよいのかな」
「ええ、私にご連らくっ」
テーブルの下で、足の甲にかかと落としをくらった。
男の人は知らないだろうが、パンプスを履いている時の甲は、すなわちむき出しで、踏まれたりするとかなり痛いのだ。
そして私も初めて知ったが、男の人の革靴のかかとは、なかなかに重量感があり、けっこうな攻撃力だ。