エリートな彼と極上オフィス
「決定事項として伝えようかとも思った。でもそれだと湯田さんはおそらく、納得してしまうだろう。だから悩んでもらうことにしたんだ」
「嫌と言う権利は、あるわけですね…」
「ある。言えば来年度もIMCのメンバーだ。こういう選択肢が与えられるのは、稀有な事例だと思うよ」
嶋さんは、どちらがいいと思いますか。
そんな無意味な質問、できなかった。
断言できないから、こうして私に投げたのだ。
どちらもありだと思うから、私の判断で決めさせてくれようとしているのだ。
──先輩は?
コウ先輩は、不思議なほどに何も言わなかった。
じっと無言で、私と嶋さんを見ていた。
アドバイスをくれる気がないのがわかった。
私が自分で決めなきゃならない何かに直面した時、先輩はこういう態度をとる。
──俺が何か言ったら、今度は俺の考えに沿うか反るかで悩んじまうだろ、お前の考えることが増えるだけだから、俺は何も言わない。
その代わり、決めたことには全力で力を貸してくれる。
私の隣には、そんな先輩がずっといたのだ。
「考えます」
「うん、返事は今週中くらいで」
「はい」
嶋さんが部屋を出ていった後も、先輩は黙ったままだった。
純粋に、“どう思いますか?”と訊きたかった。
答えてくれないことがわかっていたので、やめた。
先輩はこうと決めたら、絶対に考えを曲げない。
おそらくこの件に関しては、一言もくれないだろう。
お前が考えて、決めろ。
先輩の目は、そう言っていた。
動揺とか同情なんて、これっぽっちもない。
こと仕事に関しては、厳しいのだ、先輩は。
そこが好きなのだけれども。
さて。
私は、考えなくてはならない。