エリートな彼と極上オフィス
「返事かあ」
チョコレートの板の割れる、軽やかな音。
先輩の呟きにそちらを見ると、目が合った。
私をじっと眺めて、わずかに首をかしげる。
「欲しい?」
…ええと。
チョコの話じゃ、ないですよね。
──返事、欲しい?
くれるんですか?
どんな返事を?
先輩の瞳は妙に静かで、何を考えているのかわからない。
どうして突然そんなことを言い出したのか。
私のシミュレーションなんて、ただのネタですよ。
そのくらいわかってるくせに。
「…いいお返事なら、欲しいです」
ふっと先輩は噴き出して、そりゃそうだよな、と笑った。
それから、荷物をまとめはじめる。
「お先、お前も遅くなりすぎんなよ」
「はい、お疲れさまです」
「これサンキューな」
手に持ったチョコを軽く掲げて微笑むと、先輩は部屋を出ていった。
スーツ姿の人が、ビジネスバッグ片手にチョコをかじって歩いているというのも、見慣れない光景だ。
ガラス越しに見えなくなる直前、先輩は振り返って手を振ってくれた。
正確に言うとチョコを振っていた。
一人きりになると、知らず知らずため息が漏れる。
“返事”。
自分で好き好き言っておいて、それについて考えたこともなかったと気づいた。
だってもらえるものじゃないと思ってたから。
先輩だって、考えてもいなかったんじゃないんですか。
──違うの?