エリートな彼と極上オフィス
「おおい湯田、ちょっと教えてくれ」
「はい」
六川さんの手招きに応じて、彼のデスクに行った。
PCに表示されているのは、ちょっと凝った関数を使った、集計用の表だ。
「ちんぷんかんぷんなんだが」
「順に追えば簡単ですよ、一度別の表を噛ませてるので、難解に見えますが」
「これからの世代は、当たり前にこういうスキルを身につけて社会に出てくんのか、怖いな」
「大げさですねえ」
まあ確かに、40代後半くらい以前の世代は、会社にPCがないような時代から働いているわけで。
中学生の頃から表計算ソフトを使ってきた我々の世代は、その点では恵まれているんだろう。
「この表はですね、入力すれば自動的に今後数年間のデータを月ごと、期ごとに比較できるように作ってみてまして」
「わかるよ、湯田の抜ける穴のでかさを、改めて思い知らされてるところだ」
一瞬、手が止まってしまった。
六川さんがにやりと笑い、私越しに、誰かに視線を投げる。
振り向くと、いつの間にかこちらを見ていたらしいコウ先輩と目が合った。
デスクに頬杖をついていた先輩は、ちょっと考えるような間を置いて。
「今頃ですか、六川さん」
妙に偉そうにそう言って、みんなを笑わせた。
「待て待て、なんだって」
「どう噛み砕いて説明するかが肝で」
「その前だ」
「オーナビリティを数値化する係数を報告します?」
「それ。こんな早くできる話じゃなかったろ、どういうことだ?」
世界のビールを集めたダイナーで、先輩がエールの瓶を振る。
すぐに寄ってきた店員さんに、何か他のやつ、と大胆なオーダーをして、私を見た。
「当初はIMCのためのデータと思って、精度重視で複雑なことを計画していたんですが、だんだん、それは違うのかなと思いはじめ」
「どんなふうに?」
「全社員が納得できないなら、データだけあっても仕方ないなと。であれば最初から、誰にでも理解できる範囲で分析をしたく」
「それじゃ底が浅くて、深堀りしようとしたらできなかったってことにならないか」
「そうならないよう設計したんです。調査項目やボリュームは変えず、セグメントだけ設定し直すんです、シンプルに」