エリートな彼と極上オフィス
えっ。

欲しいかって振ったの、ご自分じゃなかったでした?

とんでもないことを聞いた気がしたけど、先輩は申し訳なさそうにするでもなく、きっぱり言った。



「少なくとも今は嫌だ」

「いつならいいんです?」

「当分嫌だ」



なんだそれ。



「あのですねえ」

「お前の異動がさみしいだけだろとか、罪の意識を引きずってんだろとか、俺だっていろいろ自問自答して大変なんだ」



…はあ。

先輩があまりに堂々として、胸を張りかねない勢いだったので、そうですか、とこちらも飲む以外ない。



「今返事したところで、お前だって同じところが気になるんじゃないかって気がついた。そういうのがクリアになるまでは、言いたくない」

「あのー」



ちょっといいですか、と口を挟むと、突っ込まれるのを察してか、先輩がポケットに手を入れて、緊張した顔つきになる。

そんなに警戒しなくても。



「それはつまり、少しは、ええと、期待していていいってことに聞こえるんですが、その点については」



私の質問は、予想していたものとは違ったらしい。

先輩は、なんだかすごく耳慣れないことを聞かされたみたいに息を飲むと、目を丸くして。

急に腹立たしげな声をあげた。



「ねーよって話なら、わざわざこんなに悩むかよ!」



怒声に圧されて、私はぽかんとする。



「それなら前と変わらないって言って終わりだよ、そうじゃねえからあれこれ考えてんのに、なんだよお前!」

「す、すみません」

「人のこと軽いとか隙だらけとか、俺なら何言われても気にしないとでも思ってんのか」

「すみません」

「自分ばっかりだと思うな、俺だって上下したりぐるぐるしたりしてんだ、お前と同じだ!」



すみません、ほんと。

怒り心頭状態の先輩は、じろっと私をひと睨みして、帰る、と言い残すと。

踵を返して、地下鉄の入り口に消えてしまった。


呆然とそれを見送った。


一人消え、二人消え。

私はひとり、歩道に突っ立って。

こみあげるこの感情を、今夜は可愛がってあげようと決めた。



先輩、好きですよ。

ほんとにほんとに。


先輩ほど愛しい人、他にいないのです。




< 149 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop