エリートな彼と極上オフィス
「えーと、私はですね、無能ではないだろうと思っていたのですが、かといって自分に何ができるかはわかりませんでした」
みんな酔っぱらって聞いていないかと思ったのに、私が話しはじめると全員が、グラスまで置いてこちらに注目した。
ので、内心で慌てた。
「できることとできないことを教えてくださったのはみなさんでした。自分の過信を思い知ることもあれば、幸い逆もありました」
小綺麗な座敷の、少し奥のほうにいる先輩と目が合う。
励ますようにうなずいてくれたので、自分はそんなに焦って見えるのかとますます慌てた。
「仕事人としての湯田は、IMCで作っていただきました。これが案外通用するのだということを、実証してきたいと思います」
「強気だなあ、湯田」
ええっ。
六川さんの野次にさらに慌てる。
何もかもみなさんのおかげだと言っているのに、なぜ強気。
えーと、と汗ばむ手をこすり合わせて、早いところまとめようと腐心した。
「というわけでまずはみなさまにお礼を。それから、今後も至高の集団でいてください。私は実働部門からお手伝いします」
ありがとうございました、と頭を下げると、予想を遥かに越えた盛大な拍手をもらった。
嶋さんから可愛らしい花束を、先輩からノートサイズの包みを渡され、こういう場に慣れていない私は、ひたすら頭を下げた。
「ブックカバーです、文庫と新書用!」
「お前、本読むもんな」
「読みます読みます、わああ嬉しいです、しかも可愛い、さすが先輩、センスいい」
嫌みのない、軟らかな革素材で、文庫のほうは元気な赤、新書のほうは知的な白だ。
表紙側に、葉っぱの形をした小さなシルバーのプレートが留めつけられていて、葉っぱにはさりげなくCの字が刻印されていた。
よくよく考えると、お土産や食べ物以外の何かを先輩からもらうのは初めてで、私は相当興奮していた。
いや正確に言うとIMCと広報部からなんだけど。