エリートな彼と極上オフィス
「Cってこのメーカーのロゴですか?」
「違う、お前のイニシャル」
「よくありましたね、けっこうイニシャルシリーズで、忘れ去られがちなアルファベットなんですけど」
驚くとなぜか、先輩がもぞもぞと居心地悪そうにする。
見たがるみんなのためにカバーを回覧に出し、私は先輩の不思議な反応に首をひねった。
「つけてもらったの、それ」
「セミオーダー的な?」
「いや、友達に趣味で革細工やってる奴がいて、そいつに頼んだの。カバー買ったはいいけど、なんか寂しいなと思って」
言葉をなくす私に、先輩はますますそわそわしはじめる。
「個人的なプレゼントでもないのに、やりすぎかなとも思ったけど、あったほうがお前っぽい気がして。訊かれなければ言わないつもりだった」
恥ずかしそうに背中を丸めて、窺うように私を見る。
ああ、もう。
人目さえなければ飛びついてますよ、先輩。
「やりすぎなんて、全然」
「ほんとに? 気に入った?」
「気に入ったなんてもんじゃないですよ、私、擦り切れるまで使い倒します」
「革が擦り切れるって相当だぞ」
私の勢いに圧されたように、それでも嬉しさを滲ませながら、先輩は控えめに笑った。
突然、その後ろ頭をぽこんと殴った人がいる。
六川さんと嶋さんたちが、ジョッキ片手に距離を詰めてきたところだった。
「湯田がいなくなると、山本が腑抜けになるんじゃないかって心配してたとこだよ」
「なりませんよ」
たぶん、と自信なさげに先輩が反論する。
「組織がまとまるためには、共通の敵か、面倒見がいのある末っ子がいるのが一番、てね」
「私の採用理由って、それですか?」
「新人を入れたいと思ったのは、それが理由だよ」
嶋さんがにこりとする。
「みんなばらばらの部署から集められて、大きな目標とすさまじいスピード感を課されて、どうやってまとめようか、悩んだんだよ」
「共通の敵案は?」
「岩瀬さんをと思ったけど、カリスマすぎてダメだった」