エリートな彼と極上オフィス

「Cってこのメーカーのロゴですか?」

「違う、お前のイニシャル」

「よくありましたね、けっこうイニシャルシリーズで、忘れ去られがちなアルファベットなんですけど」



驚くとなぜか、先輩がもぞもぞと居心地悪そうにする。

見たがるみんなのためにカバーを回覧に出し、私は先輩の不思議な反応に首をひねった。



「つけてもらったの、それ」

「セミオーダー的な?」

「いや、友達に趣味で革細工やってる奴がいて、そいつに頼んだの。カバー買ったはいいけど、なんか寂しいなと思って」



言葉をなくす私に、先輩はますますそわそわしはじめる。



「個人的なプレゼントでもないのに、やりすぎかなとも思ったけど、あったほうがお前っぽい気がして。訊かれなければ言わないつもりだった」



恥ずかしそうに背中を丸めて、窺うように私を見る。

ああ、もう。

人目さえなければ飛びついてますよ、先輩。



「やりすぎなんて、全然」

「ほんとに? 気に入った?」

「気に入ったなんてもんじゃないですよ、私、擦り切れるまで使い倒します」

「革が擦り切れるって相当だぞ」



私の勢いに圧されたように、それでも嬉しさを滲ませながら、先輩は控えめに笑った。

突然、その後ろ頭をぽこんと殴った人がいる。

六川さんと嶋さんたちが、ジョッキ片手に距離を詰めてきたところだった。



「湯田がいなくなると、山本が腑抜けになるんじゃないかって心配してたとこだよ」

「なりませんよ」



たぶん、と自信なさげに先輩が反論する。



「組織がまとまるためには、共通の敵か、面倒見がいのある末っ子がいるのが一番、てね」

「私の採用理由って、それですか?」

「新人を入れたいと思ったのは、それが理由だよ」



嶋さんがにこりとする。



「みんなばらばらの部署から集められて、大きな目標とすさまじいスピード感を課されて、どうやってまとめようか、悩んだんだよ」

「共通の敵案は?」

「岩瀬さんをと思ったけど、カリスマすぎてダメだった」


< 152 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop