エリートな彼と極上オフィス
「なんだよ」
「え」
「すげえ深いため息ついてたぞ、今」
あらっ、本当ですか。
「感慨深いなあと、配属当時を思い出して」
「初日から、動じない新人だったよなあ」
「緊張でガチガチでしたよ」
「ほんとに? じゃあ俺のほうが緊張してて、気づかなかったんだな」
先輩は、PCを開いたついでにメールチェックをするという、帰れないパターンに踏み込みつつある。
まあ宴会は二次会でも終わらないだろうし、少しここでゆっくりしていっても、誰も心配しないだろう。
人のいない場所は自動的に電灯が消える仕組みのため、部屋は私たちの上だけが明るく、窓辺は暗い。
妙に穏やかな時間が流れていた。
「緊張してたんですか?」
「してたよ、お前は知らないだろうけど、お前が来るまでの一ヶ月って、俺たちそこそこピリピリしててさ、とにかく大変な任務だぞって」
「でしょうねえ」
「俺は最年少だってことで気楽に構えてたら、いきなり新人の受け入れしろって言われて、え、俺一番若手じゃねえの、みたいな」
だまされたと思った、と正直に打ち明ける先輩に、そんないきさつがあったのかと笑った。
先輩だって右も左もわからない状態で、会ったこともない人間を後輩に持てと言われて、そりゃ肩に力も入ったろう。
ふと先輩が、こちらを見た。
「嶋さんも言ってたけど、お前は最初、新人だってことしか期待されてなかった。でもすぐに、俺たち全員、お前でよかったって思ったんだぜ」
勉強熱心で好奇心旺盛。
言いたいことは言い、間違いを認める強さも持ってる。
先輩が挙げる私の特徴は、わあ美化されてるう、と居心地が悪くなるようなものばかりだった。
「改革しろって言われても、俺たちは結局、旧態側の人間だ。お前が来て、新風ってこういうもんだと思い知らされたんだよ」
「怖いもの知らずの新人が、そう見えただけで」
「お前はもう全然、新人じゃないよ。IMCの重要なメンバーだ。お前の言う、至高の集団のひとりだよ、お前はどこか一歩引いてたけど」